B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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intimateな空間で聴いたフィリップ・ジャルスキー 【名古屋公演】
先週土曜日の東京オペラシティに続き、昨夜は名古屋の「宗次ホール」にフィリップ・ジャルスキーのリサイタルを聴きにいった。演目は東京と同一。ふだんなら同じ演目のコンサートに2度行くことはしないのだが、会場である宗次ホールが小じんまりとして音響も良く、歌曲のリサイタルには最適の環境であることを知って、さんざん逡巡した挙句にチケットを買った。どうしても、intimateな空間で彼の歌を聴いてみたかったのだ。

結論からいうと、頑張って名古屋まで行って良かった。

まず、東京のリサイタルではかなり不調だったジャルスキー氏のコンディションだが、名古屋では完全に回復していて、いつも通りの実力が発揮された素晴らしい演奏だった。次に、会場の規模(310席)がかもし出す親密な雰囲気が歌曲を中心にした今回のプログラムに最適だった。最後に、会場の規模ともからむのだが、客席がほぼ満席となり、演奏者と聴衆の一体感が素晴らしかった(東京オペラシティの客席のガラガラぶりは悪夢だったとしかいいようがない)。

最初に歌ったヘンデルのオペラ・アリア3曲では、ピアノ伴奏というある種のハンデをものともせず、派手な装飾音に彩られたバロック歌手ジャルスキーの華やかな世界が繰り広げられた。同じリサイタルに来ていた友人のNさんが演奏後にご本人にきいたところ、ダ・カーポ・アリアでの装飾音符はいつも自分で書いているとのこと。歌手としての才能を見出される前、和声学や作曲を学ぶつもりで音楽院に入った彼らしい取り組みだ。

次のドイツ歌曲も東京のリサイタルとは打って変わったコンディションの良さで、よく伸びる高音と、充分に響く中音域を堪能できた。シューベルトの「魔王」は、「魔王に連れ去られる子供」というキャラクターこそジャルスキー本来の声が地で演じられるもので(彼はよく自分の声を「女性の声ではなく子供の声に近い」と表現している)、子供の語り部分に振り分けられた高音域は彼の魅力を最も発揮できる「聴かせどころ」だろうが、私が最も注目したのは長調に転調して歌われる魔王の甘いささやきの、ぞっとするような美しさと、その奥にひそむ冷たさだ。ドイツ語に特有の「ch(ヒ)」の発音が、フランス語風の(シ)になりがち(例:「ich(イッヒ)」が「イッシ」に聞こえる)というような、発音上の問題が気になるといえばなるのだが、それを補って余りある、心を打つ演奏だったと思う。

休憩をはさんで第二部はフランス歌曲。こちらは東京のリサイタルでもなかなか良い出来だったと思うが、この晩はそれに輪をかけた素晴らしい演奏で、やはりその人の根源的なものを形成している母語で歌われる歌曲というのは、ことさらに聴くものの心を打つものだと痛感する。とりわけ、作曲された当時はサロンで演奏されたレイナルド・アーンの甘美な作品群は、今回、往時のサロン同様にintimateな空間で聴くことができて、その味わいをフルに堪能できた。リサイタルの最後の曲目がアーンの「恍惚のとき L’heure exquise」だったのは、偶然ではなさそう。まさに、この曲の最後の1行、「C'est l'heure exquise!(なんて素敵な時なんだ!)」を地でいく夜となった。

アンコールは、この日も3曲(曲目は末尾を参照)。3曲目を歌う前にポツリと「Last one...」といって会場を笑わせてくれたのも、小規模なホールだったからこそ。

リサイタルの後は、またしてもサイン会に並ぶ。実を言うとサインはどっちでもいいのだが、感動を直接、ご本人に伝えたかった。そう意味では「サイン会」というのは、ありがたい場である。さて、殺到するファン一人一人に丁寧にサインを書き、おしゃべりまでしてくれるジャルスキー氏に「先週の東京のコンサートにも行きましたが、今日の演奏は格別に良かったですね」と感想を述べたところ、嬉しそうに「今日のほうがコンディションも良く、会場も小規模で歌いやすかったんだ。先週のリサイタルは時差ボケで大変だった」とのこと。東京では少々残念な結果となったが、ここ名古屋で少人数ながらも会場を満杯にしたファンが見守るなか、いつもの実力が発揮できて彼も嬉しかったのではないか。

なお、次回の来日予定は来年12月で、古楽アンサンブルのL'Arpeggiataと一緒のツアー(ご本人・談)だという。L'Arpeggiataとジャルスキーはしょっちゅう組んでいて、音楽という固い絆で結ばれた歌手とアンサンブルの掛け合いがワクワクさせられる。だから、とても楽しみ。来年の里帰りは12月に決行しよう!

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↑ 笑顔を絶やさずファン・サービスにつとめるジャルスキー氏。圧倒的な音楽の才能もさることながら、彼の謙虚で温かい人柄に魅せられるファンも多いことだろう。

【演奏会データ】

2008年11月12日 名古屋 宗次ホールにて

演奏: フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
     ジェローム・デュクロ(ピアノ)

第1部                          
■G.F.ヘンデル
歌劇《エジプトのジュリオ・チェーザレ》より 
・チェーザレのアリア〈エジプトの地は今こそ Presti Omai l’egizia terra〉

歌劇《リナルド》より 
・リナルドのアリア〈愛しい許婚よ Cara sposa〉
・リナルドのアリア〈風よ、旋風よ Venti, turbini〉

■W.A.モーツァルト
・(ジェローム・デュクロによる)ピアノソナタ 第12番 K332 より 第2楽章 
・歌曲〈ラウラに寄せる夕べの思い Abendempfindung an Laura〉K523 

■F.シューベルト 
・歌曲〈シルヴィアに An Sylvia〉
・歌曲〈死と乙女 Der Tod und das Mädchen〉D531 
・歌曲〈魔王 Erlkönig〉D328 

第2部
■C.シャミナード: 歌曲〈ミニヨンヌ Mignonne〉
■J.マスネ: 歌曲〈スペインの夜 Nuit d’espagne〉
■E.ショーソン: 歌曲〈はちすずめ Le colibri〉
■C.フランク: 歌曲〈夜想曲 Nocturne〉
■C.シャミナード: 歌曲〈ソンブレロ Sombrero〉
■C.フランク: (ジェローム・デュクロによる)オルガン曲〈前奏曲 Prélude〉 ピアノ独奏用への編曲版

■R.アーン
・歌曲〈クロリスに À Chloris〉 
・歌曲〈彼女の館のとりこになったとき Quand je fus pris au pavillon〉
・歌曲〈捧げもの Offrande〉
・歌曲〈はなやかな宴 Fêtes galantes〉 
・歌曲〈恍惚のとき L’heure exquise〉

■アンコール
・ "Havanaise" by Pauline Viardot
・ "Cancion de cuna" by Xavier Montsalvatge
・ "Mandoline" by Gabriel Dupont
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by bonnjour | 2008-11-13 12:12 | 聴く&観る