ヨーロッパの地方都市を転々とした挙げ句、ポーランドに流れ着いた管理人「B」の日常。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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癖になるベルエポックの「阿片」
2009年 01月 15日
フィリップ・ジャルスキーが3月に出す、フランス近代歌曲の新しいディスク「Opium」(阿片)のメイキング・ビデオが、発売元のヴァージン・クラシックスによってYouTubeにアップされた。
冒頭で、このディスクでピアノを担当しているジェローム・デュクロが、ギョーム・ルクーの「墓地にて(Sur une tombe)」をジャルスキーのピアノに合わせて歌っているのはご愛敬。 Opium (阿片)というタイトルを付けたのは、収録した曲が、どれも夢見るような作品で、阿片が引き起こす陶酔や現実からの逃避、そして儚さを連想させるからだという。もっとも、サン・サーンスの、そのものずばりの「Tournoiement (Songe d’opium)」(渦巻き「阿片の夢想」)という作品も入っているのだが。 収録曲は、ジャルスキーがフランス歌曲(mélodie française)の作曲家の中でも最も親近感を覚えるというレイナルド・アーンの「クロリスへ」、「いみじき時」や、フォーレの「秋」といった有名曲と、夭折の天才ギョーム・ルクーが作詞作曲した「墓地にて」、女性作曲家セシル・シャミナードの「ミニヨン」「ソンブレロ」など、知られざる名曲を組み合わせている。ビデオで紹介された収録曲のさわりや、昨年の来日公演(プログラムの半分がフランス歌曲)で接した実演を思い出すと、「阿片」というタイトル通り、癖になりそうなディスクだ。彼のデリケートな美声が、母語で歌うメリットである豊かな感情表現を得て、ピアノと共に親密な世界を構築している。 19世紀末から20世紀初頭にかけてのベルエポック期に書かれたこれらの歌曲は、もちろんカウンターテナーを前提にしたものではない。また、ジャルスキーがバロック曲の歌唱で発揮する華やかな(時には曲芸的な)超絶技巧を要するようなレパートリーでもない。それは、フランス語という美しい言語*で書かれた詩が音楽に乗って、微妙な感情の襞を歌いあげるという、内向的な音楽だ。このところ大きな音楽賞を立て続けに受賞してちょっとした社会現象を巻き起こし、若手ながら勲章(フランス芸術文化勲章)までもらうことになったジャルスキーがこの時期に、そうした内面世界に足を踏み入れるのは、彼が音楽家として目指す方向性を示しているようで、大変に興味深い。 *フランス人に言わせるとフランス語は世界一美しい言語だそうだが、それぞれの言語は独自の美を湛えているのだから比較するのは無意味だと私は思う。しかし、フランス語を美しい言語たらしめているものがあるとすれば、それはフランス語を美しいと信じ、その美を守るために大きな努力を払っているフランス人の意識だろう。 このディスクでは、歌曲の演奏でずっと組んでいるジェローム・デュクロのピアノ伴奏のほか、ゲストとしてエマニュエル・パユ(フルート)、ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)、ゴーティエ・カピュソン(チェロ)という若手音楽家たちとのセッションもある。これについてジャルスキーは上記のビデオの中で「曲に新しい光を当てるもので、自分の声が、それらの楽器にどのように反応するか、興味深かった。相手の楽器により、自分の声は異なる色彩を帯びた」と語っている。 【オピウム(阿片)~フランス歌曲集 収録曲】 ・アーン:クロリスへ、献げ物、離れ家に閉じ込められた時、いみじき時、牢獄より ・ショーソン:リラの花咲くころ、魅惑、蝶々、はちすずめ ・フォーレ:月の光、秋、ネル ・シャミナード:ミニヨン、ソンブレロ ・ルクー:墓地にて ・フランク:ノクターン、リート ・マスネ:悲歌(チェロ演奏)、スペインの夜 ・サン=サーンス:ポエム(ヴァイオリン演奏)、オピウム(阿片) ・デュカス:ソネット ・キャプレ:みえないフルート(+フルート演奏) ・ダンディ:海の歌 演奏: フィリップ・ジャルスキー (カウンターテノール) ジェローム・デュクロ (ピアノ) ゲスト演奏家: エマニュエル・パユ(フルート)、ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)、ゴーティエ・カピュソン(チェロ) *余談だが、ジャケット写真でジャルスキーが着ているジャングル探検みたいなカーキのシャツは、ベルエポックの世界とミスマッチだなあ。Opium=黄金の三角地帯=極上のケシを求めてジャングル探検、という連想かとツッコミを入れたくなった。
by bonnjour
| 2009-01-15 10:41
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