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B的日常
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ヨーロッパの地方都市を転々とした挙げ句、ポーランドに流れ着いた管理人「B」の日常。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。

by bonnjour
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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いまどき市場原理主義? フランスの大学改革
何かにつけて米国型の市場原理主義をフランスに導入しようとしているニコラ・サルコジ仏大統領(2007年5月就任)だが、大学もその照準に入っており、高等教育・研究大臣のヴァレリー・ペクレス女史が統率する大学改革が進行中だ。学長の権限の強化(つまり学長が独裁者になりうるということ)、教育研究における競争原理の導入、財界への接近といった、この改革の理念や内容が、大学の現場にいる教員・研究者にとっては「トンデモ」ということで、2月5日には改革に反対するスト&デモがフランス各地で繰り広げられた。外地にいる相棒はストの当事者ではないが、この改革は研究者としての今後のキャリアや人生に大きな影響を及ぼすわけで、立派な利害関係者である。

改革の背景にあるのはフランスの大学の国際的競争力の低下と人材流出、大学をドロップアウトする学生の多さ、大学教育が産業界のニーズに合致せず大量の大学新卒失業者を生み出している現状、そしてエリート養成機関であるグランゼコールと大衆的な高等教育機関である大学との格差、といった問題だ。グランゼコールは高級官僚や政治家、企業幹部などを養成するフランス特有の高等専門教育機関で、厳しい選抜試験をくぐり抜けた少数の学生に徹底的なエリート教育を施す。一方、大学の場合は入学資格試験であるバカロレアを取得すればほぼ無条件にどの大学にも入学できるため、我も我もと大学に登録する。その結果、大学には収容能力を超える数の学生が押し寄せ、教育環境が劣悪になっていると同時に毎年、大量の落伍者が出ている。また大学を卒業しても職がない(これに対し、グランゼコール出身者は引く手あまたの幹部候補生として就職に苦労しない)。そこで大衆教育の場である大学の質を高め、グランゼコールに代表されるエリート教育との大きすぎる格差を是正しようというわけだ。

こうした問題を抜本的に解決しようという動きそのものは良いのだが、その手段として「学問の自由」という理念とは相容れない市場原理主義を導入しようとしたのが現場からの総スカンを食らっている理由だ。そもそも、米国のサブプライム問題に端を発する金融危機で市場原理主義のほころびが見えてきた今、そんなものをイマドキ導入するなんて時代遅れじゃないかという見方もある。

以下は、今回の改革に反対する大学関係者たちが出した「国際アピール」だ。オリジナルのフランス語のみならず、日本語を含む16の言語に翻訳されている。この国際アピールのWebサイトはこちら。

【国際アピール】

フランスの大学は無期限のストライキに入った。

フランスは、独立と自由と敬意を享受する、高等教育および優れた研究の公共サービスを有していた。政府は、ここほんの数ヶ月で、暴力的に、しかもなんの合議もなく、この公共サービスを破壊し、不安定性と恣意性が支配する一種の知識マーケットに変質させることを決定した。

- (教育と研究を担当する)教員は安定な身分を失い、授業時間数は(学長の一存で)どうにでもなり得る様になる。
- 独立性をもたず不安定な非常勤教員と入れ替えるために、常勤教員のポストは劇的に減らされようとしている。
- 博士候補生に対し、大学は、最初の6ヶ月については、何の理由もなくその身分を奪う事が出来る様になる。しかもまた、当人には何の了承も得ず、そして何の権利も持たせず、企業の為に奉仕させられる事になろうとしている。
- 初等・中等教育教員を養成するシステムは破壊されている。
- (何よりも競争にさらされ、国家の強化された支配下で)「自主独立化」し、充分な予算を持たない大学は、まもなく授業料を徴収せざるを得なくなり、また地元財界に服従せざるを得なくなる事は、想像に難くない。
- フランス国立科学研究センター(CNRS)は廃止され、テクノクラート(高級管理職技術者) による予算配分機関に変えられている
- 研究者は、すべての学会から拒絶された不適切で馬鹿げている「定量的」な基準にもとづいて評価される。

我々、全ての国の大学関係者および研究者は、ここに、世界各地でおしつけられてきた(そして今日もおしつけられようとしている)官僚主義的で金銭至上主義的で危険な方策を見いだす。

以上の理由から、我々は、フランスの大学関係者と連帯する。『百科全書』、ボルテールやルソー、更に「人権宣言」を生んだ国において、教育と研究が一種の商売に貶められ、諸々の権力の恣意に左右されることになるとすれば、そこで脅かされるのは全世界の自由である。

是等の新たな状況を強いる諸々の圧力が、一気に押し寄せて来ている。我々の存在価値を守る為には、我々はこれまで以上に、そしてこれら諸勢力以上に団結しなければならない。それゆえ、我々は、大学関係者たちに対して、この様に広められつつある、如何なる時代の人文主義的知識人も、誰一人として味方しなかったこの偏流に直面する今日、政治的、哲学的、あるいは宗教的な立場の違いを越えて団結することを訴える。
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さて、この国際アピールのWebサイトでも紹介されているのだが、フランスの研究とイノベーションに関するサルコジ大統領のスピーチ(2009年1月22日)の「嘘」をあばく傑作なビデオが英語字幕付きでYouTubeにアップされているのでご紹介する。事実誤認、歪曲、強弁のオンパレードには苦笑してしまう。オリジナルの仏語版は2月4日に投稿され、すでに27万回以上再生されている。


by bonnjour | 2009-02-16 11:14 | 思う