B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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親密さと儚さ ― ジャルスキーのフランス歌曲集「Opium」
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(写真・上:阿片吸引の準備中) ※よいこの皆さんは真似をしないでください。

フィリップ・ジャルスキーの新しいディスク、「Opium-フランス歌曲集」を聴いた。今は存在しないカストラートたちのために書かれたバロックのアリアを、舌を巻くような高音と超絶技巧で歌って喝采を浴びてきたジャルスキーだが、このアルバムでは一転して、19世紀末から20世紀初頭にかけて作られたフランス歌曲(Mélodies Françaises)を、ごく内輪のサロンで演奏しているような親密さで歌っている。そこにはアクロバット的な技巧が入りこむ余地は、まったくない。かわりに「言葉」がいっそうの重みをもつ。

人生や世界についての洞察を時に瞑想的に、時に哲学的に歌う、いわば「地に足の着いた」ドイツ・リートに比べると、フランス歌曲は微妙な心の動きや感情を言葉に託し、音楽という束の間の媒体にのせて空間に放っている感がある。このアルバムに収められた曲もその例にもれず、アルバム全体が、立ち昇ってひと時の陶酔を与えた後に忽然と消えていく阿片(オピウム)の煙のイメージに包まれている。

彼が自分の声に一番合っていると認めているレイナルド・アーンの作品が5曲と一番多いのは当然として、ショーソン、フォーレ、マスネ、サン=サーンスなど、フランス歌曲の隆盛を担った作曲家たちの名作が軒並み並ぶとともに、24歳で夭折したベルギー出身の早熟の天才ギョーム・ルクーや、女性職業作曲家の草分けであるセシル・シャミナード、そして「魔法使いの弟子」で知られるポール・デュカスの、通常はあまり演奏されることのない珠玉の歌曲を取りあげたのは、バロック作品で同じように「埋もれた名作の発掘」をしてきた彼らしい。

カウンターテナーという、ここ50年ほどの間に「再発見」された声が、それ以前に書かれたフランス歌曲を歌うことについては意見が分かれるかもしれない。しかし、このアルバムに関してはジャルスキーのいわばサロン向きな繊細で親密な声と母国語で歌うという強み、そして巧みな選曲があいまって成功していると思う。高音域の美しさはいつも通りだが、中音域ではフランス歌曲に特有の、テノールがかった軽いバリトン(ジェラール・スゼーがその代表例)を思わせる音色が感じられたのも面白い。仏語圏の若手器楽奏者(ヴァイオリンのルノー・カピュソン、チェロのゴーティエ・カピュソン、フルートのエマニュエル・パユ)たちがカウンター・テナー・ボイスにからむ試みも意欲的だ。

さいごに、このディスクのブックレットに載っているジャルスキー自身のメッセージが興味深いので、下記に拙訳をご紹介する。

「Opium」

多くの皆さんにとって、このディスクは「驚き」でしょう。フランス歌曲ファンの方々はいうまでもなく、バロックのレパートリーを歌う私に馴染んできた皆さんからも、必ずや同じ質問が出ることと思います。「なぜカウンターテナーが、このレパートリーを?」と。

正直なところ、カウンターテナーという声種のために書かれた音楽は、過去50年間に作曲されたものを勘定に入れても、あまり幅広いものではありません。私たちカウンターテナーはたいていの場合、カストラートのために書かれた作品を歌っていますが、カストラートの声は実際にはカウンターテナーとはまったく違う音色をもっていました。そうであるならば、通常カウンターテナーとは結び付かないものの、実はその声と相性がよい音楽の世界に冒険をしてみてもいいではないかと考えました。自分に関していえば、洗練と親密さを備えたフランス歌曲の世界には常に共感を覚えてきましたし、歌手としてのキャリアを始めた当初から、恩師であるニコル・ファリアンのもとで、このレパートリーを長い時間をかけて勉強してきました。

このディスク誕生のきっかけを作ってくれたのはルノー・カピュソンです。彼が組織するBel-Airフェスティバルに招かれて、初めてレイナルド・アーン、ガブリエル・フォーレ、エルネスト・ショーソンを歌いました。また、そのときに彼の紹介でジェローム・デュクロと知り合い、たちどころに音楽面で意気投合しました。これに背中を押されて、無数の珠玉作があるにもかかわらず過小評価されがちなフランス歌曲という、豊かで大きな広がりをもったレパートリーをジェロームと一緒に開拓することになったのです。今回のプロジェクトに温かくも貴重なサポートを提供してくれたルノー・カピュソン、その弟のゴーティエ、そしてエマニュエル・パユの諸氏に心から感謝します。

作品を歌うにあたっては、聞き手のイマジネーションの中で言葉が最大限に自然な響きを放つよう、今日、普通の話し言葉で使われている発音に極力近い発音を注意深く選びました。また、わざとらしさや「過度の演出」は避けました。このディスクの録音にあたり、そうしたアプローチを取るようにとの得難いアドバイスをくださったフレデリック・フェイに格別の感謝を捧げます。

フィリップ・ジャルスキー



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by bonnjour | 2009-03-18 09:35 | 聴く&観る