B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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ロンドン旅行記 その3:フィリップ・ジャルスキーのフランス歌曲コンサート@Southbank Centre
今回のロンドン旅行の主な目的であるフィリップ・ジャルスキーのフランス歌曲コンサート(ピアノ伴奏:ジェローム・デュクロ)を聴くために、テムズ河畔のSouthbank Centreに行く(下の写真はテムズ河にかかるウォータールー橋から眺めたSouthbank Centre)。同行者は、はるばる日本からやってきたN子だ。

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会場であるPurcell Roomは、歌曲や室内楽などの演奏に適切な、こじんまりとして質素なホールだ(座席数372席)。この質実剛健な会場に颯爽と登場したジャルスキーとピアノのデュクロの30代コンビは、しかし、最初の曲の第1節から、私を19世紀末フランスの芸術サロンの世界に誘った。

フランス歌曲の世界に宝石のような名作を残したレイナルド・アーンの作品は、繊細でピュアな現在のジャルスキーの声質に最も合っている。今晩も、彼のテーマソングと化した感のある「A Chloris」(クロリスへ)や、悲しい恋の物語「Trois jours de vendage」(葡萄摘みの3日間)など6曲を、持ち前の美声をたっぷり聴かせて歌い切った。声のコンディションも最高で、メロディーが高音部に達するとホール全体に彼の声が共鳴して、鳥肌が立つような感覚に襲われた。まるで映画「カストラート」でファリネリが発した高音に、観客(貴婦人だけでなく紳士も)が恍惚となって卒倒するシーン(N子談)のようだ。しかし彼の声の魅力は、よく称賛される超高音にとどまらず、ニュアンスに富んだ中音域のピアニッシモの美しさといったら比較できるものがない。超絶技巧を披露するバロック・オペラと違い、言葉を大切にする歌曲を歌う場合には、これがとりわけ武器となるだろう。

プログラムの中では、若さや美の儚さを、咲いたと思ったらしぼんでしまう薔薇の花になぞらえたセシル・シャミナードの「Mignonne」(愛する人よ)も、カウンターテナーという、一時の徒花ともいえる声が歌うことで、一層の説得力をもって伝わってきた。また20代の若さで世を去った早熟の作曲家、ギョーム・ルクーが作詞作曲した「Sur une tombe」(墓前にて)は、あたかも悲劇を歌で演じているかのようだった。シャミナードもルクーも、今日ではほとんど演奏されない作曲家だが、ジャルスキーの声を得て現代に甦った感がある。フランス歌曲であれバロック作品であれ、今では忘れ去られた珠玉の作品を発掘してはコンサートやディスクで積極的に紹介しているジャルスキーの活動に好感を持つ。

【今宵の演目】

Gabriel Dupont: Mandoline
Ernest Chausson: Le colibri, Op.2 No.7
Camille Saint-Saens: Tournoiement (Songe d'opium), Op.26 No.6
Reynaldo Hahn: Offrande
Jules Massenet: Nuit d'espagne for voice & piano
Cecile Chaminade: Automne, Op.35 No.2 (ピアノ独奏)
Reynaldo Hahn: A Chloris
Gabriel Faure: Automne, Op.18 No.3
Ernest Chausson: Papillons, Op.2 No.3
Ernest Chausson: Les heures, Op.27 No.1
Cecile Chaminade: Sombrero

====== Interval ======

Cesar Franck: Nocturne for voice & piano 
Reynaldo Hahn: Trois jours de vendage
Gabriel Faure: En Sourdine, Op.58 No.2
Guillaume Lekeu: Sur une tombe (No.1 of 3 Poemes for voice & piano)
Reynaldo Hahn: Fetes galantes
Cesar Franck: Prelude for piano (ピアノ独奏)
Gabriel Faure: Nell, Op.18 No.1
Ernest Chausson: Le temps des lilas (from Poeme de l'amour et de la mer, Op.19)
Reynaldo Hahn: Quand je fus pris au pavillon (No.8 of 12 Rondels)
Cecile Chaminade: Mignonne
Reynaldo Hahn: L'Heure exquise

上記を見てわかる通り、途中にピアノ独奏をはさんだプログラム構成は、それぞれの曲の緩急や曲想などの点で演奏効果が考え抜かれており、プログラム全体が有機的つながりを持っているのが感じられた。レイナルド・アーンの「L'Heure exquise」(恍惚のとき)で締めくくったのは、昨年の日本でのコンサートと同様である。

アンコールは2曲。19世紀の伝説的オペラ歌手、マリア・マリブランの妹で歌手兼作曲家だったポーリーヌ・ヴィアルドの「ハバネラ」と、本編で歌われたセシル・シャミナードの「ソンブレロ」の裏バージョン。後者では、途中でジャルスキーの地声であるバリトン・ボイスが登場しコミカルな味が加わっている上、最後の一小節を驚異的な音量と長さで朗々と歌って、聴衆を熱狂させた。このシーンを観客のひとりがコッソリ撮影した映像がYouTubeに投稿されていたのでご紹介する(gさん、この動画の情報をありがとうございました):



イギリスの聴衆は日本同様、感情表現が控えめなのではと思っていたのだが、今宵のジャルスキーとピアノのジェローム・デュクロには、やんやの喝采が飛んだ。もちろん、私たちも興奮して「Bravo!」と叫んでいた。

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演奏会終了後にサイン会に応じてくれた、ジャルスキー&デュクロ・コンビ。フランス歌曲に的を絞った今日のプログラム構成は、昨年の日本でのコンサート(バロック曲、シューベルト、フランス歌曲のミックス)にも増してよかったと感想を申し上げたら、わが意を得たとばかり同意してくれた。日本でのコンサートでは諸事情から、様々なスタイルの音楽を入れたプログラムを組まざるを得なかったとのこと。シューベルトを演奏会で取り上げるのは、昨年の日本が最初で最後だろうということだった。

演奏会の後は、かねてからネットでお付き合いのあったドイツ在住のロシア人で音楽教師のJさんに実際にお目にかかることができ、N子と3人でイギリスのビールを飲みながら音楽談義に花が咲いた。彼女はジャルスキーの大ファンで、彼のコンサートのために今回のロンドン以外にもパリやベルリンなど、ヨーロッパ各地に出没している。来月のポツダムでのコンサートにも駆け付けるとのこと(同じドイツ国内だものね)。明るくてエネルギッシュな人だ。音楽がきっかけで各地に住む色々な人と知り合えるのは、本当に楽しい。
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by bonnjour | 2009-03-24 15:31 | 旅する