B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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大岡昇平「ザルツブルグの小枝」
作家・大岡昇平が1953年から54年にかけて、ロックフェラー財団の奨学金で米国とヨーロッパに1年間の留学をした際の旅行記。大岡はこのとき、44歳。妻子を日本に置いての単独渡航だ。

終戦から10年も経たない1953年という時期に、米国の財団が旧敵国の作家に対して、1年間の旅費(米国とヨーロッパの主要な都市を軒並み訪問している)と滞在費を丸抱えという気前のよいオファーを行ったことに驚く。もっとも、旧敵国の文化人に対してだからこそ、このようなプログラムを通して欧米の文化を紹介し、日本での宣伝役となってもらおうとしたのだろう(その試みは、半分成功して、半分失敗しているように、私には思える)。

大岡昇平はフィリピン戦線に出征し、この世の地獄を経験した後、米軍の俘虜となって終戦を迎えている。10年前には敵国であった米国に、今度は権威あるロックフェラー財団の留学生として乗り込んでいく心の葛藤や、東洋人ということで幼い子供にまで侮蔑の目を向けられる屈辱、日本人としての自負とそれに裏腹なコンプレックス(敗戦後の日本人が皆抱いていたであろう)などが、軽妙な旅行記の端々に見え隠れする。

タイトルの「ザルツブルグの小枝」は、大岡が心酔し研究の対象としたスタンダールの、「恋愛論」で述べられる「恋愛の結晶作用」から来ている。結晶作用とは、ザルツブルグの塩抗に投げ込まれた小枝が、ほどなくしてダイヤモンドのような塩の結晶できらびやかに飾られるように、恋する者は恋愛の対象を徹底的に美化するということだ。この題名は、大岡が恋焦がれた欧米の文化・風物に対する「結晶作用」をも、示唆している。

ところで文中には「(ルーブル美術館の)二階に引き返したら、吉田秀和君にばったり会った」、「森(有正)君はフランスに来てもう五年になる」、「作曲勉強中の若い別宮君の感想では」等々、作者が滞在中に会った人々の名前が随所に出てくる。あの頃は、みんな、若かったんですね。
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by bonnjour | 2005-10-17 21:03 | 読む