B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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秋の大型連休便乗の旅日記 その5:パリで出会ったフランドルの巨匠たち。夜はオペラ・バスティーユに
チケットを事前に買ったコンサート以外は特にスケジュールを決めず、その日の気分で行く場所を選んだ今回の旅。本日月曜日は5区にあるモスク(Grande Mosquée de Paris)付属のハマム(蒸し風呂)に行って垢すりでもやってもらおうかと思っていたが、旅行者ゆえ入浴中の貴重品の管理など考えると面倒くさくなって行くのをやめた。

かわりに訪れたのが、前夜お会いしたAさんに勧められたジャックマール・アンドレ美術館で開催中のブリューゲル、メムリンク、ヤン・ファン・エイク等の特別展。18世紀、女帝マリア・テレジアの顧問だったザムエル・フォン・ブルケンタール男爵(1721-1803)が収集した質の高いコレクションを公開しているという。好きなフランドル絵画の名品がまとめて見られるとあって、行くことにした。

しかし美術館に到着するまでに道に迷い、かなりの時間を無駄にした。この美術館は、パリ市大改造で有名なオスマン男爵を記念したオスマン大通りにあるが、最寄りの地下鉄駅から地図を見ながらたどり着いたのは、なぜかシャンゼリゼ通り。方向音痴もここまでくると手が付けられない。気を取り直して正しい方角に向けて歩き出し、やっと到着した美術館はチケット売り場の待ち行列が歩道にまではみだしている大盛況ぶりで驚く。
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30分以上待ってやっとチケットが買え、内部に入る。入場料(10ユーロ)にはオーディオガイドが含まれている。何語がいいかと訊かれたので英語版を頼んだが、後で調べたら日本語を含む8カ国語に対応しているという。たいしたものだ。

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19世紀の裕福な銀行家エドゥアルド・アンドレと、その妻で画家のネリー・ジャックマールが収集した15世紀イタリア絵画および18世紀フランス絵画のコレクションを、彼らの住まいだった壮麗な邸宅に展示しているのがこの美術館で、建物それ自体も当時のブルジョワの生活ぶりをしのばせる、贅を尽くした空間だ。ネリーは一般家庭の生まれだが知り合いの貴族夫人に娘のように可愛がられ、上流社会に出入りするうちに肖像画の仕事で知り合った富豪のエドゥアルドといわゆる「アラフォー」で結婚、夫婦で精力的に絵画の収集を行った。夫妻の死後は、コレクションの散逸を恐れたエドゥアルドの遺志で邸宅と収集品がフランス学士院に寄贈され、今に至る。

さっそく特別展の会場に入る。展覧会のポスターにも使われているファン・エイクの「青い頭巾の男」(写真下)は、サイズは小さいながらモデルの内面を映し出すようなフランドル絵画の名品だ。この肖像画は長いことアルブレヒト・デューラーに帰せられてきて、ブルケンタールもデューラー作品と思って購入したという。
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また、ブリューゲルの「ベツレヘムの幼児虐殺」(写真下)は舞台を雪景色のフランドル地方に置き換え、大虐殺シーンが不思議に静かな雰囲気の中で繰り広げられる。見れば見るほど怖ろしい絵だ。
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静物画のセクションもあったが、一番気に入ったのはヨハン・ゲオルク・ヒンツのこの作品。キュリオシテ(珍奇な品々)を収めたキャビネットは、それが実物の棚であるかのような騙し絵になっている。
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こうした名作を収集したブルケンタール男爵は、マリア・テレジア女帝の顧問を務めた後、ハプスブルク家の支配下にあったトランシルヴァニアの知事に転じた人で、女帝の援助も受けて美術品の収集に力を入れた。そのコレクションは現在、ルーマニアのブルケンタール国立博物館に収められており、今回はそこから貸与された作品が展示されている。

特別展以外の常設展示も、優れた審美眼を持つ夫妻が集めた作品だけに大変見応えがあった。通常の美術館と違い、それらの作品を個人の邸宅の各部屋に考え抜かれた配置で展示しているのもポイントだ。↓ 美術館の公式写真より。
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時間をかけて展示を見ていたら昼食の時間帯をはるかに過ぎていた。夜はオペラ・バスティーユのチケットを購入済みなので、それまでのつなぎに食事ができる適当な店を探すことにした。界隈の散策も兼ねてサンジェルマン・デ・プレで地下鉄を降りてみたが、目につくのは有名な「ドゥ・マゴ」をはじめとする洒落たカフェばかりで、半端な時間にしっかりした食事ができそうな場所が見つからない。フォーラム・デ・アールの周辺にゴチャゴチャと飲食店が密集しているエリアがあるのを思い出し、地下鉄に乗って移動。前に来たときに飛び込みで入って気に入り、滞在中に3回も行ったレバノン料理の軽食堂を目指したが、別の店に変わっていた(ガッカリ)。かわりに北アフリカ料理のクスクスを出す軽食堂に入った。

頼んだのは「クスクス・ロワイヤル」。蒸したデュラム小麦に肉や野菜を煮込んだスープをかけて食べるクスクスは、この料理の発祥地を植民地化したフランスの家庭料理の定番だ。レストランで供される場合、具によってバリエーションがあるが、「ロワイヤル」は数種類の肉のミックスグリルを添えたもの。材料が豪華なのでレストランでは結構な値段をつけているが、この軽食堂のロワイヤルは10ユーロ50という安さなので、あまり期待せずにオーダーする。

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値段なりの味だったが、午後4時という半端な時間に温かい料理がすぐ出てくるこの種の軽食堂は、時間が限られた旅行者にはありがたい。後で相棒にクスクス・ロワイヤルを10ユーロ50で食べたと話したら、いったいどんな店に入ったのかと笑われた。食後は、店内のショーケースに魅力的なアラブ菓子が陳列されていたので、そのうちの一つを選んでミントティーとともに食べた。
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食事の後、ホテルに戻るにはまだ少し時間があるのでパリで最古といわれる常設市場の「マルシェ・デザンファン・ルージュ(Marché des Enfants Rouges)」を見学しようと思い立ち、地図を片手に徒歩で北マレ地区に向かう。今度はすんなりと現地に着いたが、月曜が定休日で閉まっていた。思い付きで行動すると、このように無駄足を踏むことになると反省。
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直訳すると「赤い子供たちの市場」というこの施設名から、てっきり共産主義に共鳴する若者たちが関わった事件か何かを記念しているのかと思ったら、16世紀、ここに孤児院があり、子供たちはキリストの慈愛を象徴する赤い服を着せられていたのでこのような名前になったそうだ。だいたい、パリ最古の市場なんだから共産主義とは時代的に合わないと、想像力の暴走を反省する。市場が閉まっていたので最寄駅のFilles du Calvaireからホテルのあるリヨン駅に戻る。それにしても「カルワリオ(=ゴルゴタの丘)の娘たち」という、駅名としては奇妙でおどろおどろしいネーミングが気になる。だが後で調べると、なんのことはない、Filles du Calvaireというベネディクト派の女子修道会から取った地名だった。

その後はホテルに戻り、大急ぎで入浴と着替えを済ませ、徒歩10分ほどのオペラ・バスティーユに向かう。豪華絢爛なオペラ・ガルニエと違い、1989年落成のモダンなオペラハウスで、観客の服装も比較的カジュアルだ。開幕前に携帯電話の電源を切るようアナウンスがあったが、仏、英、独の各国語の後に日本語が流れてきたのには驚いた。確かに在住または旅行で訪れた日本人客が多そうな場所である。
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演目の「セビリアの理髪師」は、2002年に初演されたコリーヌ・セローの演出によるプロダクションで、エキゾチックなアラブ風の舞台設定となっている。セビリアは長いことイスラム勢力下にあったので突飛な着想ではないが、舞台装置の砂漠や椰子の木、登場人物の服装などはスペイン・アンダルシア地方というよりは完全に「アラビアンナイト」風だ。後見人の医師バルトロによって家に閉じ込められているロジーナの「囚われの美女」という境遇を強調するには分かりやすい(ただし少々ステレオタイプ化された)状況設定で、パティオを取り囲むイスラム建築の優美な家屋はロジーナにとってさしずめ鳥籠だ。とはいえ、難しいことを考えずに美しい舞台装置とカラフルな衣装、そしてもちろん軽快なロッシーニの音楽を楽しむ絢爛豪華な舞台に仕上がっていた。とりわけ、最新設備のバスティーユのメリットを生かした回り舞台による舞台転換は目を見張った。


【スタッフ&配役】
Bruno Campanella: Conductor
Coline Serreau: Stage Director

Antonino Siragusa: Il Conte d’Almaviva
Alberto Rinaldi: Bartolo
Karine Deshayes: Rosina
George Petean: Figaro
Paata Burchuladze: Basilio
Aimery Lefèvre: Fiorello
Jeannette Fischer: Berta


出演者ではアルマヴィーヴァ伯爵のアントニーノ・シラグーザが、明るく輝きのある声でロッシーニ・テノールの真髄を発揮して一番の喝采を受けていた。ふだんテノールをあまり聴かない私だが、ロッシーニのテノールのアリアはある種、スポーツを見るような爽快感があると思った。ロジーナ役のカリーヌ・デエイェは丁寧な歌唱に好感を持った。ハーレムパンツに身を包んだ舞台姿もチャーミングだ。フィガロはジョルジュ・ペテアンで、響きの美しい軽快な歌唱が頭の回転の速いフィガロの人物像によく合っている。

しかし私が一番楽しみにしていたのは、ドン・バジリオを演じるグルジア人バスのパータ・ブルシュラーゼ(はい、低音フェチですから)。よく通る凄みのある低音で歌われるアリア「中傷はそよ風のように」は、異彩を放っていた。

オペラが終わったのは夜10時半過ぎ。この時間から外食すると帰りが遅くなってよろしくないので、ホテル近くのDaily Monop(大手スーパーのモノプリが始めたコンビニ的業態のスーパーだが24時間営業ではない)でお惣菜を買ってホテルで食べる。昼間に逃してしまったレバノン料理の雪辱を晴らそうと、レバノン風前菜のセットを買う。5ユーロ50。入っていたのは左側の白っぽい物体から時計回りにフムス(ひよこ豆のペースト)、ナスのペースト、オリーブ、野菜のスパイス煮。味はコンビニの持ち帰り弁当のレベルだけど、買い置きの赤ワインと一緒に食べたら結構満足した。
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by bonnjour | 2009-09-21 18:19 | 旅する