B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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マドリッド旅日記 その2 ゲイ・テイストがちりばめられた「ポッペア」
21日(金)の夜、今回の旅のメインイベントであるモンテヴェルディのオペラ「ポッペアの戴冠」(テアトル・レアルにて)に行く。同行者はパリ在住のCさん。詳しい感想は後でゆっくり書くとして(<==またバックログになりそうで、危険)、見てきた印象を記憶が薄れないうちに書き留めておく。

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L’incoronazione di Poppea
by Claudio Monteverdi (1567 - 1643)
Dramma musicale in a prologue and three acts
Libretto by Giovanni Francesco Busenello
New edition based on the Venice Version by Jonathan Cable, 2010
New production of Teatro Real in coproduction with Teatro La Fenice in Venice

【スタッフ】
音楽監督:William Christie
演出: Pier Luigi Pizzi
照明:   Sergio Rossi

【キャスト】
Poppea: Danielle de Niese
Nerone: Philippe Jaroussky
Ottavia: Anna Bonitatibus
Ottone: Max Emanuel Cencic
Seneca: Antonio Abete
Drusilla: Ana Quintans
序曲(クリスティが通奏低音と指揮を兼ねた弾き振りをしている)に続きプロローグ。「幸運」(Fortuna)と「美徳」(Virtù)がどちらが偉大か口論しているところに「愛」(Amore)が割って入り、自分がもっとも偉大であると宣言し、証拠を見せようという。彼らはそれぞれ台車に乗って舞台を移動するが、それを動かしているのは忍者風の黒装束に身を包んだ黒子たちだ。黒子といい、「幸運」がまとうヴェルサーチを思い出させるモダンなゴールドの衣裳といい、出だしからこのプロダクションは特定の時代やスタイルにとらわれない予感。

幸運や美徳をさしおいて皇帝ネロ(ネローネ)と人妻ポッペアの不倫愛が勝つという、現代人から見たら実にけしからんストーリー(あらすじはこちらを参照)をオペラにしたのは、権謀術数が渦巻くヴェネチア共和国という土壌があってのものだったのかもしれない(台本のジョヴァンニ・フランチェスコ・ブセネッロと作曲のモンテヴェルディは、ともにヴェネチアで活躍した)。

タイトルロールのポッペアは、近年他のプロダクションでもこの役を演じているダニエル・ドゥニース。まだ若いのに大変に上手な歌手だと思うし、舞台映えのする派手な容姿と薄物衣裳の似合うダイナマイト・ボディ(笑)の持ち主でポッペア役に似つかわしいのだが、歌唱はちょっと一本調子で陰影に欠ける印象を受けた。

ネローネ役のフィリップ・ジャルスキーは硬質で輝きのある声で、この暴君のエキセントリックさや凶暴さと、その裏にある傷つきやすさや子供っぽさをよく表現していた。この役はソプラノに近い音域までカバーしているので最高音では少々、喉がつまっているような感じがしたが、それより下の音域はいつもながらパーフェクトな歌唱だ。「羽根はたき」を彷彿とさせる黒い羽根に覆われたガウンやら、裳裾をひきずるゆったりとしたローブやら、ラストシーンのゴールドのチュニックやら、皇帝役なので衣裳も大変に豪華で目を楽しませてくれた。

↓「羽根はたき」に身を包むジャルスキー。

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ポッペアに裏切られる夫、オットーネ(駄洒落じゃありません)はマックス・エマニュエル・チェンチッチ。彼のビロードのようなアルト~メゾソプラノの声は、とても表現力が豊かなうえに安定感がある。ポッペアとネローネがローマ風といえなくもない衣裳をまとっているのに対し、彼は現代風のコスチュームに身を包んでいた。

女性歌手で一番の収穫は、ネローネの正妻で最後はローマを追放されるオッタヴィアを演じたアンナ・ボニタティブスだ。よく響く豊穣なメゾソプラノ声で、威厳ある皇后と不幸な女という両方の側面を見事に表現していた。彼女が終盤で有名な慟哭のアリア「さらばローマよ(Addio Roma)」を歌いだすと、劇場中が彼女に釘付けとなった。カーテンコールでタイトルロールに負けず劣らずの喝采を浴びていたのは当然だ。

レザール・フロリサンの17人の奏者を率いたクリスティが紡ぎだした音楽は典雅で、音色も豊かだった。彼が手塩にかけて育ててきた楽器奏者と信頼を置く歌手たちを集めた今回の「チーム」は大成功だったといえるだろう。

演出で特筆したいのは、そこかしこにゲイ・テイストがちりばめられていたこと。ネローネの周囲は黒の半ズボンと身体にぴったりしたラメのシャツを着込んだ親衛隊(Cさんと私は「あれじゃレイザーラモンHGだよ」ということで意見が一致した)が固めているし、ポッペアの策略で自殺に追い込まれた哲学者セネカの死の後、ネローネと悪友ルカーノがポッペアの性的魅力をたたえる二重唱ではみるみるうちに男同士の濡れ場になっちゃって、歌詞ではポッペアを称えながらルカーノの手はネローネの変なところをまさぐっているし(オペラグラスでしっかり確認済み)、口にキスはするし、最後はネローネがエクスタシーに達するしで、腐女子(笑)なら嬉しくて卒倒しそうな光景が展開された。

そうだ、暴君ネロは男色が普通に行われていた古代ローマの人。オッタヴィアやポッペアの他にも、男性との「結婚」歴があったと伝えられるくらいだから史実に基づいた演出なのだ(と無理やり自分を納得させる)。

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いつもながら素晴らしい歌唱を聴かせてくれたジャルスキーに一言かけたくて、終演後にCさんと一緒に楽屋口で「出待ち」をした。楽屋口では私たちの前にフランス人マダム2人組が彼を待ちかまえていたが、顔なじみらしい彼女たちに対応しつつ、後ろに私たちがいるのに気付いてくれて「やあ」といった感じに挨拶してくれたのはファンとして大変に嬉しい。マダム2人組にビズした後、成り行きで私たちにもビズしてくれたのは、もっと嬉しい。5月のそよ風みたいな彼のビズは、あまり現実感がなかったけれど。

ネローネの複雑な人物像を見事に表現して素晴らしい舞台でした、と感想を申し上げたら、ジャルスキーは目を輝かせて「このオペラの登場人物は、みな白と黒の側面を持っているんだ」と答えた。「ポッペア」はオペラ史上最高の作品だと思っていること、テアトル・レアルはとても歌いやすい劇場で、自分の声がよく聴こえること、今回のプロダクションはとてもよいチームが組めたこと、ネローネ役はソプラノの音域に達しているので毎回ハラハラしながら歌っていることなど、彼の話の端々から音楽に対する真摯な思いが伝わってきた。

来週の月曜の公演も聴きにくる予定だと伝えたら「それじゃマドリッドをゆっくり見て回ることもできるね」とにっこり笑った。なんていい人なんだ。
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by bonnjour | 2010-05-21 10:23 | 旅する