B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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マドリッド旅日記 その5 もういちど「ポッペアの戴冠」へ
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グルメのCさんの提案で、昼食はシーフードが絶品と評判の「El Barril」というレストランに行く。はじめ渡されたメニューがスペイン語で解読に苦労したのだが(持参した自作の単語表はまったく役に立たなかった)、きいたら英語版もあるのでそれをもってきてもらった。
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前菜は、スペイン滞在中に一度は食べておきたいねとCさんと話していたタコの料理を頼む。ウェイターさんがシェアをすすめてくれたのでそうしたが、確かに1皿が大変なボリュームだった。あまり手を加えず唐辛子とオリーブオイルで味付けしたタコは、ボトルで頼んだよく冷えたCavaによく合う。メインは「アンコウのソテー エビとハマグリ添え」を頼んだ。ゼラチン質の白身が美味しい。デザートはパイにこってりしたカスタードをはさんだもの。大満足のランチだった。

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本日のメインイベントはオペラ「ポッペアの戴冠」をもう一度見ること。主役級の急なキャンセルに備えて、日にちを少しあけて2回の公演を確保しておいたのだ。前回(金曜)は138ユーロの席を奮発したが、今日は49ユーロの天井桟敷(Paraiso=”天国”)だ。うきうきした気持ちで最上階に行く。

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天井桟敷のエリアは、劇場のWebサイトで平面図を見たときには舞台からはるかに遠いように感じられたが、実際に座ってみると自分の席が正面に位置することもあって舞台が非常に見やすい。音が届かないのではないかという最初の心配も、前奏が始まってからすぐに払拭された。



舞台装置はシンプルで、回り舞台でネローネの宮殿と、ポッペアの邸宅、ポッペアの讒言で自殺に追い込まれる哲学者セネカの邸宅が切り替わる。セットの色調はモノクロと青みがかかった大理石模様でスタイリッシュな感じ。黒っぽい大理石のどっしりとした寝椅子が舞台前方に置かれ、効果的に使われている。

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今日もメインの配役の調子は絶好調で、天井桟敷にもよく声が届いた。とくに皇后オッタヴィア役のアンナ・ボニタティブスは豊穣な響きのある力強い声の持ち主だ。ポッペアを暗殺しようとしたことが明るみに出てローマを追放される終盤では、アリア「さらばローマよ」の冒頭の「A-a-a-addio, Roma」と、うめくような劇的な「ア」の音が心に残った。ポッペア役のダニエス・ドゥニースは元気でイキイキしているのはいいが、細かい心の動きを表現する繊細さに欠けると感じた。フィナーレのネローネとの愛の二重唱「Pur ti miro, pur ti godo」も、なんだか味気なく終わってしまって残念だった。

ネローネ役のフィリップ・ジャルスキーは高音がよく伸びて美しい。硬質で澄んだ声の持ち主なので、彼が歌うネローネには凶暴な権力者というより、夢見るような少年の面影を見てしまう。ポッペアの夫、将軍オットーネ役のマックス・エマニュエル・チェンチッチはしっとりと落ち着いた声で抜群の安定感があった。ジャルスキーもチェンチッチも、たっぷりの声量で劇場を一杯にするタイプの歌手ではないが、テアトル・レアルの音響は彼らのデリケートな声を味わうのに適していると思った。

ポッペアの侍女アルナルタはテノールのロバート・バートが演じたが、コミカルな味は出ていたものの、声の魅力という点では物足りなかった。とりわけポッペアを寝かしつける子守唄「Oblivion soave」は、昨年出たラルペッジャータのアルバム「Teatro d'Amore」に収録されているジャルスキーの抒情的な歌唱や、フォン・オッターがアルヒーフから出したバロック・アルバムでの透明感ある歌唱に馴染んでいるので違和感があった。もちろん、メゾやカウンターテナー歌手がこの曲を演奏会用作品として歌うのと、テノール(年老いて女性的外見を失った乳母役は伝統的にテノール歌手が担ったときく)がオペラという物語の中で歌うのでは、比較することじたい無理があるのだが。

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↑ フィナーレの二重唱で見つめあうポッペアとネローネ。

今日の席は舞台を上から見下ろす形だったので舞台上の歌手の動きを立体的に把握できたのがよかったし、オペラグラスを使えば細かい演技も見ることができた。このほか劇場内には、舞台が見づらい席のためにモニタースクリーンが用意されていた。その画面を見ていたCさんの話によると、第2幕6場でネローネと悪友ルカーノ(テノールのマチアス・ビダル)が歌う二重唱「Hor che Senca è morto, cantiam(セネカは死んだ。さあ歌おう)」では、ポッペアの美しさを称える歌詞と裏腹に、二人がホモセクシュアルな行為に走り、あろうことかネローネの股間をまさぐるルカーノの手がアップでモニターに映し出され、観客は唖然としたそうだ。ちなみにこの舞台はDVD化予定のようだ。

この場面はよほど印象的だったようで(笑)、さっそく公演の音源(5月18日に地元ラジオ局がライブ放送した)を使ったクリップがYouTubeにアップされているのでご紹介する。



上のクリップの映像は手稿譜なので今ひとつ見にくいが、4:28~4:50あたりは印刷楽譜だと下記のようになっている。2段目のメリスマ音型とそれに続くパートを歌っているのがルカーノで、その上に乗っかる1段目の「Ahi, Ahi, Ahi」というため息のような音符がネローネ。歌詞ではポッペアの美しさと性的魅力を称えるうちに感極まってネローネが失神するのだが、今回の演出では別の理由でイッてしまう。下記楽譜の最後の3小節、「Ahi, Ahi, Ahi, destino(ああ、ああ、ああ、運命だ)」というあたりがそのシーンになるが、音と楽譜をシンクロさせて見ているうちに、登場人物2人の振りつけを思い出して顔が赤らんできた。

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↑ 二重唱のシーンのルカーノ(右:マチアス・ビダル)とネローネ。ネローネの胸に手を入れるわ、変なところをまさぐるわ、唇に接吻するわで、とんでもないお友達どうしだ。

舞台が終わったあと、また楽屋口で前回のフランス人マダム2人組に会ったので自己紹介や世間話をしながらジャルスキーが出てくるのを待った。ほどなく彼が登場したので「ルカーノとの二重唱には驚嘆しましたよ」と感想を言ったら、この晩の出来は今までで一番よかったとのこと。そして舞台でのパフォーマンスは日増しに変化しているとも。論議を呼びそうな男同士のラブシーンについては「ネローネは熱狂しながらも怖がっているんだ。自分がストレートでいられるかどうかの瀬戸際だからね」と説明してくれた。ふむふむ、彼は複雑なネローネのキャラクターを表現したいとインタビューで答えていたが、これも複雑さの要因の一つになっているかも。

徒歩で劇場にほど近い宿舎に帰るジャルスキーを、ホテルが同方向にあるフランス人マダム2人とCさん、そして私とで歩きながら見送った。普段着にかばんを提げた姿は一仕事終えた勤め人といった風情がしなくもなく、街の風景にすんなりと溶け込んでいるのが面白い。

そのあと、マダム2人組とCさんと私は近くのカフェに行った。お嬢さんが音楽院でヴァイオリンを専攻しているというClさんと、ジャルスキーが21歳でデビューしたコンサートに居合わせて以来、彼の活動を見守っているというMさんは、ともにパリ在住で、このオペラを見にマドリッドにやってきた。今夜を入れて3回(!)の公演に接し、明日パリに帰るという。音楽の話をして盛り上がり、連絡先を交換して別れた。こうしてコンサートで知り合いが増えていくのは楽しい。
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by bonnjour | 2010-05-24 12:09 | 旅する