B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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ショルとジャルスキーがロンドンでパーセルを歌った
日々の雑事に心を奪われているうちに半年あまりブログの更新をさぼってしまった。はじめ9月に予定されていたドイツへの引っ越しは土壇場になってから来年に延期になり、まだデンマークにいる。夏休みにはドイツ・スイス・フランスへの列車の旅、秋には日本への里帰りと台湾食い倒れ一人旅、そして日本からデンマークに戻る途中ではイスタンブールに立ち寄って(日本行きのチケットを探したらトルコ航空が一番安かったのだ)壮大なモスクに圧倒された。今年はなんだかふらふら旅行ばかりしていて、大反省である。でも記憶が薄れないうちに、後付けではあるが空白の半年のサマリーをブログに記録しておかねば、なんて今さらのことを考えている。

で、気を取り直して最新のコンサートの感想など書いてみたい。

今、ロンドンに来ている。アンドレアス・ショルとフィリップ・ジャルスキーが組んだ、ヘンリー・パーセル作品だけを集めたジョイント・コンサートと、チェチーリア・バルトリが新星カウンターテナーのフランコ・ファジョーリを伴って開く「ヘンデルと彼のライバルたち」という面白そうなプログラムを聴くためだ。この二つの公演、嬉しいことに1日違いで、場所も同じバービカン・ホールだ。バルトリの公演はショル&ジャル組に比べてチケットがかなり高いのは、彼女の人気や知名度を考えると仕方ないこと。この機会を逃してなるものかと、今年2月に早々と両方のチケットを買ってしまった。

で、今日はカウンターテナー界の人気者2人が組んだパーセル・プログラムに行ってきた。ドイツ人とフランス人のカウンターテナー歌手が、フランスを主な活動の場とするバロック・アンサンブル(ジャルスキーが音楽院仲間と結成した「アンサンブル・アルタセルセ」を伴って、イギリス音楽史の至宝ともいえるパーセルの曲をロンドンで(!)歌うという、意欲的な企画だ(なお、同じプログラムでヨーロッパ各地をツアーすることになっており、今日が初日)。

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結論からいうと、二人の歌手の互いに大きく異なる音楽的スタイルや声質が、パーセルという英語のレパートリーを得て、非常に面白い化学反応を起こしたと思う。プログラム構成は、器楽曲をところどころにはさみながら、ショルとジャルスキーのソロおよびデュエット曲をつなげていく形。ソロ曲は温かさと深みのあるアルトの声のショルと、澄み切って流麗な声(声域はメゾソプラノに該当する)をもつジャルスキーの個性を生かした選曲で、デュエット曲ではこの二つの声が取り合わせの妙ともいうべき素晴らしいハーモニーを生み出した。カウンターテナーというニッチな世界では超ビッグネームである二人の歌手を組ませたキワモノの企画かと思いきや、二人の音楽に対する真摯な思いが伝わってくる、きわめてまっとうなプログラムだったのだ。アンサンブル・アルタセルセの演奏も好演だった(バロック・ヴァイオリンの超絶技巧プレイヤー、アレッサンドロ・タンピエーリが演奏の合間に合唱に加わった1曲では、彼が素晴らしい声をもっているのに驚いた。多才な人だ)。

この企画に関しては昨日(12/6)のGuardian紙にショルとジャルスキーの興味深いインタビュー記事が載っている。それによると、二人で共演するという話は2年前にショル側から出て、コンサートのテーマにパーセルを提案したのはジャルスキーということだ。プログラムを組んだのもジャルスキーで、最終版ができるまでに10通りの案を考えたとのこと。プログラム全体を通して一つのドラマが表現されるような、巧妙な構造になっているのはさすがだ。

これもGuardianの上記記事からだが、ショルは以前、あるインタビューで「カルメンを歌ってみたいな」と言ったそうだ(じっさい、彼はドミニク・ヴィス、パスカル・ベルタンと組んだオムニバス盤でカルメンの「ハバネラ」を歌っている。とても端正で清潔な感じのするジプシー女だった)。その話をきいてジャルスキーは「なら僕がミカエラを歌うよ」といって爆笑。音楽の可能性は果てしないのだ。

そしてプログラムの一つであるデュエット曲「My dearest, my fairest」に関しても触れている。この曲はラブソングであり、男二人で歌うのはちょっとアブナイ感じがする。しかし、ステージで歌うときに「My fairest」と呼びかける相手は必ずしも共演者でなく、聴衆に対しての呼びかけであってもいいではないか、というのが彼らの解釈だ。それにこの曲を女声の二重唱で歌うケースは多くて、それは何の抵抗もなく受け入れられている。なぜ女声がよくて男声だといけないのか、というのは私たちの中にあるジェンダーの固定観念への疑問になるだろう。

さて、今夜のコンサートで残念だったのは、ショルがどうも風邪をひいているようで、コンディションが最悪だったこと。声に張りがないし、ブレスの際にゼイゼイするような音が聞こえたうえ、思わず咳払いする一瞬もあり、無事に歌い終えてほしいと祈るような気持ちになってしまった。生身の人間だから身体の不調はいつやってくるかわからないが、早く治して次のコンサート地ではベストの体調で歌ってほしいものだ。

ジャルスキーはいつものように非常によく通る声でデリケートな歌唱をきかせてくれた。なかでもNow That The Sun Has Veiled His Light (An Evening Hymn)は、最後のリフレインのHallelujahがとても印象的で、出色の出来だったと思う。プログラムの流れをさえぎって大きな拍手がわいたのもうなずける。

ショルはアンコールのCold song(King Arthurより)がとても迫力があり、ブラボーの嵐になった。私がこの曲を初めて聴いたのはクラウス・ノミの録音で、いうなれば自分の中では独特の色が付いちゃっているのだが、もちろんショルの歌唱はスタイルの面でも声質の面でも(ついでにテクニックも)ノミ版とは異なる。とはいえ、同じドイツ人歌手という点で、ショルがこの曲を取り上げると誰しもがノミに言及したくなるのかもしれない。

↓クラウス・ノミ版のCold Song


アンコールはショルのソロが1曲、ジャルスキーのソロが1曲、最後に二人のデュオが1曲と、バランスを考えた選曲(曲目は下記参照)。デュエット曲の「Hark! How the songsters of the grove」は、ちょっとした歌合戦的な演出がしてあって、笑わせてくれた。ショルがバリトンの声域で歌った一節はなかなかの出来。ジャルスキーも途中で一瞬、バリトン声域に降りてきたが、「カウンターテナーっていう天職が見つかってよかったね」と思わせる声なのはご愛敬だ。

会場ではブログでお付き合いさせていただいているロンドン在住のdognorahさん椿姫さん、そして日本からいらしたgalahadさんなど、沢山の方と直接お目にかかることができたうえ、今年5月にマドリッドのテアトル・リアルで知り合ったフランス人マダムCさんおよびMさんとも偶然会っておしゃべりができて、とても楽しかった。

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追記:パリで12月11日に開かれる同じプログラムのコンサートのライブ録音を、フランスのラジオ局radio franceが1月3日に放送する予定で、局のウェブサイトでも聴ける。ただし通常は可能なオンデマンドの再放送が、この録音に限っては行われないため、ご注意。

日時:2011年1月3日(月) 12:30-14:00 (フランス時間)*日本では1月3日20:30-22:00
放送局:france musique (radio france)
番組名:Concert de midi et demi


【プログラム】

Overture: Bonduca
Hark how the songsters of the grove - Duet
Fairest isle - Philippe Jaroussky
Strike the viol - Andreas Scholl
Hark, hark each tree - Duet

Abdelazer suite (overture + autre pièce + célèbre rondeau )

In vain the am’rous flute - Duet
Now that the sun - Philippe Jaroussky
One charming night - Andreas Scholl
Sound the trumpet - Duet

***** Interval *****

Overture: Fairy queen
Bid the virtues - Philippe Jaroussky
Either this way - Philippe Jaroussky
Sweeter than roses - Andreas Scholl
O solitude - Andreas Scholl

Suite - Fairy Queen

My dearest, my fairest - Duet
Music for a while - Andreas Scholl
O let me weep - Philippe Jaroussky
Now the night - Duet

***** Encore *****

"What Power art thou (Cold song)" from King Arthur - Scholl

"See even night herself is here" - Jaroussky

"Hark! How the songsters of the grove" from semi-opera "Timon of Athens" -

Duet

Ensemble Artaserse
Andreas Scholl countertenor
Philippe Jaroussky countertenor

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by bonnjour | 2010-12-07 13:50 | 旅する