B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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進化する「アルタセルセ」-演奏会形式の公演をネットラジオで聴く
誰もが忙しい大晦日に、こんなエントリーでもないと思うのだが、忘れないうちに書いておく。

日本時間の本日未明にスイス・ロマンド放送のクラシック専門局Espace2で、レオナルド・ヴィンチ作曲のオペラ「アルタセルセ」の、演奏会形式の公演(11月25日、ローザンヌ歌劇場にて収録)がオンエアされた。それに先立つ11月6日と8日に、私はナンシー歌劇場でこのプロダクションのフル・ステージ版を見ているのだが、演奏会形式はまた違った意味で面白いぞという話を、各地の公演(ウィーン、ローザンヌ、パリ、ケルンを巡回している)に行った人々から聞いていたので、大きな興味をもってリアルタイムで聴いてみた。
キャスト
Artaserse: Philippe Jaroussky
Mandane: Max Emanuel Cencic
Artabano: Daniel Behle
Arbace: Franco Fagioli
Semira: Valer Barna-Sabadus
Megabise: Yuriy Mynenko

Concerto Köln
Direction musicale: Diego Fasolis

まず、フル・ステージ版に比べて全体的にスピードがますます速くなっているのに驚いた。バロック式の重い衣裳や鬘を脱ぎ捨てたら、身軽になったというわけでもあるまいが。演奏会形式にするにあたり、出演者ひとりにつきアリア1曲を割愛し、レチタティーヴォも大胆にカットしていることもあり、コマ落としのようにストーリーが進んでいく。この作品はもともと、カストラートの大スターたちを勢揃いさせて独唱を競わせるような作りになっており、アルバーチェ(ファジョーリ)とマンダーネ(チェンチッチ)による3幕目の感動的な二重唱を除き、すべてが独唱曲なのだが、レチタティーヴォをかっ飛ばしてアリアが次から次へと出てくるさまは、ケルンで演奏会版を見たレイネさんが「白白歌合戦」と形容した通りである。

この様子は、ウィーンでの演奏会形式上演を報じた「ル・モンド」紙2012年12月10日付記事でも触れられているので、ご紹介しよう。

「ウィーンで上演された(後日、パリでも上演される)演奏会形式のバージョンは、大幅にカットされている。カウンターテナーたちは各自が一曲ずつアリアを削られ、レチタティーヴォも短縮された。とはいえ心配は無用だ。情熱的で流麗かつこまやかなディエゴ・ファゾリスの指揮のもと、熟練の音楽家集団であるコンチェルト・ケルンが奏でる音楽に乗って、すべては稲妻のように駆け抜ける。高音で歌う我らが歌手たちは、名人芸を互いに競い合う。」(以上、拙訳)

そして装飾音とカデンツァが、先行発売されたディスクやフル・ステージの演奏から進化している。こういう実演は生もので、どんどん変化していくというが、まさにその通りだ。中にはとても面白い装飾音やカデンツァを付ける人もいたので(ジャルスキーとかファジョーリとか)、あとでスコアを見ながら(手稿譜を写真に撮ったものなので、ウルトラ見にくいが)じっくり聴き返してみたいと思う。

個々の歌手の声そのものについては、あまり断言ができない。それというのもネットラジオの音質が非常に悪くて、音がくぐもるうえに高音部に変な歪みがあった。このネット放送はビットレートが128kbp(mp3, rm)ということなので、音質はそれほど劣悪ではないはずなのだが、受信者つまり私の問題なのかもしれない。ケーブルテレビ経由のブロードバンド接続を、家庭用の無線LANルーターで階下から2階に飛ばしているのだが。

しかし音質がいまひとつの中でも、歌手どうしが良い意味でのライバル意識をかきたてて、歌唱がどんどん上向きになる現象は見てとれた。例えば、ファジョーリ演じるアルバーチェとジャルスキーのアルタセルセという親友コンビがレチタティーヴォで対話するときに、ディスクやフル・ステージの舞台ではやらなかったような高音の装飾音をそれぞれ付けていて、おっと思った。ちょっと不自然なほどの装飾音だったので、もしかすると往時のカストラートたちの歌合戦状態を戯画化したのかもしれないが。

さて、この企画そのものについて。

アムステルダム在住の熱心な音楽ファンであるPさんが、千秋楽(12月27日)のケルンで、このプロダクションをナンシー歌劇場と共同製作したParnassus Arts Productionsの代表、ジョージ・ラング氏に聞いたところでは、カウンターテナーが5人も出る男性だけのオペラ公演というコンセプトに、多くの歌劇場が尻込みして、最初は制作パートナーを探すのに苦労したそうだ。その困難を乗り越えてヨーロッパ・ツアーを成功させた手腕に敬服する。Parnassusには、今回の配役の大半の歌手たち(チェンチッチ、配役中唯一のテノールをダブルキャストで務めたベーレとフアン・サンチョ、最近移籍したファジョーリ、そしてミネンコ)が所属しており、アーティストのラインナップをみるとカウンターテナーに大変に強い事務所であることがわかる。

レイネさんがブログですでに書いている通り、このプロダクションは2014年にヴェルサイユ(3月、フル・ステージ)とアムステルダム(5月、演奏会形式)が再演が決まっているので、さらに進化したアルタセルセ2.0みたいのが聴けるのではないかと楽しみだ。

また、今回のプロダクションのアーティスティック・コンセプトとキャスティングは、マンダーネというスカート役を熟達した「声の演技」で演じきったチェンチッチが兼務で担当しているが、これだけの歌手を適材適所に配置した慧眼とプロデュース力に敬意を表したい。指揮者とオペラ歌手の両親のもとに生まれ、ウィーン少年合唱団では子供離れした圧倒的な歌唱力でソリストを務めた彼だが、将来の夢はオペラのプロデューサーだときく。それに向かって着実に歩みを進めているのがよくわかる。ローザンヌ公演に先立っては、地元のテレビ局の文化ニュースに出演して宣伝に努めていた(彼が流暢なフランス語で、しかし外国語であるからかちょっとためらいながら話す様子には萌える)。
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by bonnjour | 2012-12-31 11:26 | 聴く&観る