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B的日常
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ヨーロッパの地方都市を転々とした挙げ句、ポーランドに流れ着いた管理人「B」の日常。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。

by bonnjour
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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イタリアのデジタル資料ポータルInternet Culturaleはお宝がザクザク
先日、当ブログで「サイバー空間のWunderkammer(驚異の部屋)」と題し、ドイツ国内の様々な図書館や博物館のデジタル化資料を一元的に提供するポータルサイトをご紹介したが、アルプスの向こう側も負けてはいない。調べ物をしていて、イタリアのデジタル化資料ポータルサイト「Internet Culturale」に遭遇したのだが、これはかなりのすぐれもの。現時点でイタリア国内70の図書館・博物館・文書館が所有するデジタル化ファイル850万点を無料で検索し、閲覧できる。

追記:今、自分のパソコンのブックマークを整理していたら、このサイトをずいぶん前にブックマークしてたのに気付いた。フィリップ・ジャルスキーが以前、インタビューかなにかで、知られざる名曲を発掘するためのお勧めの情報源として、このサイトに言及していたのだった。゜(゜´Д`゜)゜あの、ジャルスキーがワクテカしながら楽譜を検索している姿を思い浮かべると、なんだかほほえましい。

イタリアのデジタル資料ポータルInternet Culturaleはお宝がザクザク_c0163963_24617.jpg

サイトの入り口(上のスクリーンショット)からして、クラシカルで重厚な感じがするではないか。ページ右上に「Lingua: It En Fr Es」というボタンがあるのに反応しない件は、突っ込みを入れるのをやめておこう。将来的にはこれらの言語にも対応するのだろう。そして、「Collezioni Digitali」(デジタル・コレクション)というコラムをよく見ると、右下になにやら青くてきれいな、中世の写本らしきサムネイルが表示されている。

イタリアのデジタル資料ポータルInternet Culturaleはお宝がザクザク_c0163963_3584243.jpg
興味をひかれてクリックしてみたら、ルッカのBiblioteca Stataleが所蔵する、ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(1098-1179)の「Liber Divinorum Operum」(「神の業の書」)の写本(通称、Lucca-Codex)が出てきた。この貴重な写本の各ページを自分のパソコンで閲覧し、必要に応じて拡大表示したり、ページ単位でPDFファイルを生成して無料ダウンロードできるのだから、この分野の研究者はもちろんのこと、神秘主義マニアとか写本マニア(なんているのか?)にも嬉しいサービスだろう。テキストを解読するのは専門家に任せ、とりあえず美しい図版(下記写真は「生命の輪」の図)を眺めてぼーっとするのが正しい楽しみ方かもしれない。

イタリアのデジタル資料ポータルInternet Culturaleはお宝がザクザク_c0163963_4263943.jpg
もちろん、欲しい資料の分野や名称を指定して検索するのが基本だが、暇なときにはこんなお宝発掘の遊びもできるということで。

さて、調べ物をしていてこのサイトを見つけたと書いたが、きっかけはフランコ・ファジョーリが今年秋に出すアルバム「カッファレッリのためのアリア」(往年の名カストラートに捧げるオマージュ・アルバム)だ。彼の所属事務所(Parnassus Arts Productions)のサイトで、アルバム収録曲のひとつが試聴できるのだが、作曲家名(パスクァーレ・カファロ)とアリアのタイトル「Gonfio tu vedi il fiume」が表示されているだけで、どのオペラのどのようなアリアなのか、詳細が分からない。そこで周辺情報を調べているうちに、作品の手稿譜の画像データをここで見つけたのである。ナポリのサン・ピエトロ・ア・マジェラ音楽院図書館の所蔵品。

イタリアのデジタル資料ポータルInternet Culturaleはお宝がザクザク_c0163963_312883.jpg

イタリアのデジタル資料ポータルInternet Culturaleはお宝がザクザク_c0163963_322584.jpg
ちなみに、このアリアは「イペルメストラ」(=ギリシャ神話のヒュペルムネーストラー)というオペラに出てくるもので、タイトルロールの婚約者であるリンチェオ(=ギリシャ神話のリュンケウス)が歌う、ということが分かった。ヒュペルムネーストラー? リュンケウス?なにそれ、美味しいの?とギリシャ神話音痴の私には、またまた調べる材料が増えてしまうのであった。

あらすじ: アルゴスの王ダナオスの娘イペルメストラは、婚約者リンチェオとの結婚を心待ちにしていたが、父王から初夜の床でリンチェオを暗殺するよう命じられる。板挟みになった彼女は、婚約者の命を守るため、理由を告げずに彼に愛想尽かしをする。事情を知らないリンチェオは、彼女が心変わりしたと勘違いして、添い遂げられないなら自分は自殺すると言い張る。その一方、国王はイペルメストラが暗殺計画を口外したと疑い、彼女を捕らえる。そこに、彼女を助けようと、リンチェオ率いる一団が乱入し…
バロック・オペラ・ファンにはおなじみの偉大な台本作家、ピエトロ・メタスタージオ(1698-1782)によるこの物語(リブレットはこちら)は、カファロの他にグルック、カヴァッリ、ヴィヴァルディ(アリア3本のみ現存)ら、何人もの作曲家がオペラにしている。しかしこんなマイナーなアリア、よく見つけてくるものだ。歌詞の内容からみるに、このアリアはイペルメストラの心変わりを疑ったリンチェオが、彼女のいない人生なんて意味がないから自殺すると脅迫するシーンのようである。

手稿譜を見ているうちに、YouTubeクリップ職人魂(といってもたいして凝ったものが作れるわけではない)がむらむらと頭をもたげてきて、事務所サイトで拾った試聴用音源と手稿譜を同期させたこんなクリップを作ってしまった。パソコンにおまけで付いてきたWindows Liveムービーメーカーというソフトで作成。手稿譜の画像ファイルを、音源に合わせて切り替えていくだけのシロモノだが、画像の表示時間を手作業で0.01秒単位で指定しながら全部で30枚の画像を入れていくのは結構手間がかかる。


"Gonfio tu vedi il fiume" from Ipermestra
Composed by Pasquale Cafaro (1715-1787)
Libretto by Pietro Metastasio (1698-1782)
  Franco Fagioli, countertenor

苦心して作ったものは他人に見せたくなるものだが、ブログを通じてファジョーリの普及活動に力を入れておられるアルチーナさんがYouTubeでいち早くクリップを見つけてくれて、Twitterで紹介してくださったのには感激、というか情報の早さに恐れ入った。これもフラちゃん(=ファジョーリ)への愛がなす業だろう。また、自分でもFacebookにリンクを張ってみたところ、所属事務所の代表であるジョージ・ラング氏から「いいね」を付けてもらえて、ほっとした。試聴用音源を勝手に使ってクリップを作ったので、「君ぃ、困るよ!」とお叱りがくるかと、実はちょっと心配だったのだ。クレームどころか、「フランコの新しいアルバムはアリア13曲を収録、お楽しみに!」「アルバムのリリースと同時期にコンサートツアーも予定」とコメントを付けて、所属アーティストの宣伝に余念のない社長であった。

というわけで紙幅が尽きたので(電子媒体に「紙幅」なんてないだろという突っ込みは禁止)、ファジョーリの新しいアルバムについての話は後日書きたいと思う。
by bonnjour | 2013-01-21 01:00 | 聴く&観る