B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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ウィーン旅日記 - ファジョーリのAlto Gioveで失神の三歩手前
ウィーンに来た目的である、ニコラ・ポルポラ作のオペラ「ポリフェーモ」(演奏会形式)を、金曜日の晩にアン・デア・ウィーン劇場で聴いた。ここは、モーツアルトの「魔笛」の台本作者で俳優、興行師でもあったエマヌエル・シカネーダーが設立した歴史ある劇場。近年では専らミュージカルを上演する劇場だったが、2006年に「新しいオペラハウス」というキャッチフレーズで再びオペラ劇場に生まれ変わった。

さて、劇場に近づくと今日の演目のポスターが見える。
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「Franco Fagioli in
POLIFEMO」
とある。すごいな。彼が看板役者(じゃなくて歌手か)として興行を背負って立ってる感じが伝わってくる。
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【作品について】
イタリア後期バロックの作曲家ニコラ・ポルポラ(1686-1768)がパオロ・アントニオ・ロッリの台本に基づいて作曲し、1735年に初演されたパストラル・オペラ。ストーリーは、「オデュッセイア」と、オウィディウスの「メタモルポーセース(変身物語)」にあるアチス(アチ)とガラテアの話を組み合わせている。タイトルの「ポリフェーモ」は、美青年アチと相愛の仲にあるガラテアに横恋慕する単眼の巨人。初演時には、当時の超人気カストラートであるファリネッリがアチ役、同じくセネジーノがウリッセ(ユリシーズ)役を歌った。

Cast:
Aci - Franco Fagioli (CT)
Galatea - Laura Aikin (S)
Ulisse - Xavier Sabata (CT)
Polifemo - Christian Senn (BT)
Calipso - Mary-Ellen Nesi (MS)
Nerea - Hannah Herfurtner (S)

Bach Consort Wien
Conductor: Ruben Dubrovsky

さて、この晩の歌唱だが、アチ役のフランコ・ファジョーリが飛び抜けて光っていた。「神は一人、ファリネッリも一人」と称えられたカリスマ・カストラートのために書かれた役だから、聴かせどころのアリアが割り当てられていて歌い甲斐のある役ではあるのだが、それを差し引いても、彼の声質、発声法、表現力は他の歌手たち(彼らも、それぞれに美点のある音楽家なのだが)を大きく引き離している。

例えば1幕目のアチのアリア「Dolci fresche aurette」での、クリームのようにまろやかで密度の濃い声。ファジョーリはインタビューで自分の声をメゾ・ソプラノだと説明しているが、メゾの声質の中に男性的なトーンが一本通っていて、それがこの作品のような青年役にはうってつけである。(ちょうど1年前、ファジョーリがカールスルーエで歌った同じアリアの音源を、下に貼り付けておく。)



2幕目のアリア「Lusingato dalla speme」では、バロック・オーボエとファジョーリの声がからむのが、まるで上質な織物に触れているようで、至福の瞬間だった。そこで気がついたのだが、オーボエの音色と彼の声は、どこか共通点があるのじゃなかろうか。

そしてこのオペラで一番有名なアリアであろう「Alto Giove」。フィリップ・ジャルスキーがこのアリアを得意にしていて、彼のsignature songともいえるのだが、ファジョーリは、この曲に新しい基準を与えたと思った。この二人の歌手は、まったく違った声質の持ち主ゆえ、透明度の高いジャルスキーの歌唱では天に向かって登るようなイメージ、ファジョーリ版はもう少し濃密で重力が感じられて、大気圏を漂っているイメージといえばよいか(なんのこっちゃか?)。このアリアではダ・カーポの装飾音が大変に興味深かった。装飾音によって上の音域を延ばすばかりでなく、下の音域に降りていき、ファジョーリの特質である力強く厚みのある胸声を聴かせてくれるのだ。驚くのは、彼の胸声と頭声の切り替えがごく自然で、音色にまったく差がないことだ。彼の発声法については、英国のオペラ雑誌「Opera Now」に載った、彼のインタビュー記事が参考になる。記事の和訳はこちら

ダ・カーポ部分の「Alto Giove」という、長い長いパッセージを聴いて、私は失神の3歩くらい手前までいったことを告白しておきたい。

さて、他の歌手についての感想。

ウリッセ役を熱演したシャビエル・サバタは、安定感のある歌唱で安心して聴いていられる。最近、コンセプト・アルバムの「Bad Guys」を出して好評を博している彼だから、次は悪役で聴いてみたいかな。

ポリフェーモを歌ったバリトンのクリスチャン・センは、一手に低音部を担う重要な役割。歌唱に加えて、酔っ払うくだりの演技はユーモラスで観客が沸いた。

女性歌手陣では、ネレア役のハンナ・ハーフルトナーが、出番は少ないものの、クリスタルのように透明な声で光っていた。それに対して、肝心のガラテア役のローラ・エイキンは、私には声に魅力が感じられず少々興醒めだった。ガラテアとアチとの二重唱は、二人の歌手の資質の差を見せつけられるようで、彼女に気の毒な気がしたほどだ。カリプソのマリー・エレン・ネジは、とても実力のある歌手。低音歌手が好きな私には目が離せない。

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↑ カーテンコール。左からマリー・エレン・ネジ、シャビエ・サバタ、クリスチャン・セン、指揮のルベン・ドゥブロフスキー、フランコ・ファジョーリ、ローラ・エイキン、ハンナ・ハーフルトナー。

サイン会はなかったが、現地在住が長く、音楽関係者に知り合いの多いTさんが同行していたので、彼女が親切にも楽屋口まで連れていってくれた。そこで待つことしばし、オケのメンバーの後から歌手陣が次々と出てきた。ファジョーリ氏は一番最後。出てくるやいなや、沢山のファンに囲まれているのは、さすが人気者である。ナンシー歌劇場で「アルタセルセ」に出演したあなたを聴いて大変に感動したが、今晩の歌唱もそれに負けず劣らず素晴らしかった、と言ったら、作品そのものがとても優れているんだ、との答え。なんと謙虚な。それに、舞台の上で盛大なブラボーを受けているときも、オケにも拍手を送ってほしいという身振りをして、そうしたステージマナーがまた観客を魅了するのである。歌っているときは神がかっていたファジョーリだが、オフステージではフレンドリーで感じのいい、どこにでもいそうな青年というギャップが、またよかった。
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↑ 彼の出演したロッシーニのオペラDVD「パルミーラのアウレリアーノ」を持参してサインしてもらっちゃった。
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by bonnjour | 2013-02-22 10:32 | 聴く&観る