B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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2010年 12月 17日 ( 1 )
グリセリンカリ液 別名ベルツ水 
ロンドンで酷寒の中をガシガシと歩いて観光したのがいけなかったのか、両脚に「あかぎれ」ができてしまった。そんな時の特効薬は「グリセリンカリ液」、別名「ベルツ水」だ。日本から取り寄せたものを出してきて塗ってみる。こちらで買うボディ用保湿ローションより、即効性がありそうだ。

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有効成分は水酸化カリウムとグリセリンで、水酸化カリウムが角質の軟化と皮膚の新陳代謝の促進、グリセリンが保水性によって皮膚の乾燥、あれを防止するんだそうだ。ただしアルカリ性が強く、連用すると皮膚が薄くなってしまうので長期使用は禁物だ。

このローションは、明治時代のお雇い外国人でドイツ人医師のエルヴィン・ベルツ(1849 – 1913)が考案したものだが、彼が日本で娶った夫人のハナと箱根の富士屋ホテル(その頃からあったのね)に滞在したとき、そこで働く女中さんたちが冬場にひび・あかぎれに苦しんでいるのを見て、入手が容易な材料だけで作れるローションを調合し、普及を図ったそうだ。肌の手入れに使えるものがヘチマ水と馬油くらいしかない日本では、女たちは水仕事で荒れた手を治すのに難儀している、というハナ夫人の助言もあったようだ。ユーザーの声から生まれたロングセラー。そんな誕生の経緯から、現代の私たちでも自作できそうなローションではあるが(実際、自分で作る人もいる)、グリセリンはまだしも、水酸化カリウムの入手が面倒くさそうなので(危険物だからね)、挑戦したことはない。

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ベルツ(上の写真。着物がよく似合っている。黄八丈だそうだ。西洋の渋いオヤジはベルツにしろ、画家のバルテュスにしろ、なぜか和服がよく似合う)は日本滞在中に日記や手紙を残しており、それを息子の徳之助(トク・ベルツ)が編集したものが邦訳されて「ベルツの日記」として出版されている(岩波文庫:上巻は品切重版未定だそうで・・・)。当時の日本の世相を外国人の視点で捉えた貴重な史料として名高いが、私はまだ読んだことがない。

この日記を解説したものを読むと、ベルツは明治維新後に西洋文明を貪欲に吸収しようとする日本のエネルギーに驚嘆し、そんな日本および日本人に温かい目を向けつつも、自国の歴史や伝統を無視するどころか全否定して西洋から新しいものを無条件に取り入れる姿には批判的で、ヨーロッパの学問を生み出した風土や背景を理解することなしに技術だけを移植する実利主義一辺倒の考え方をいさめている。

彼自身が、最先端のドイツ医学を日本に伝えるために招聘されたわけで、もしかすると医学哲学を語りだした彼に「細けぇ事はいいんだよ、診断テクニックだけ教えてくれれば」なんて日本人の弟子から突っ込みが入ったこともあったのか?(そのあたり、「ベルツの日記」を読んでいないので事実は不明)。ともあれ、彼がみた明治の日本は、技術の応用や改良は得意だが、技術の根底に流れる思想を作り出すのは不得意といわれる現代日本に通じるものがあり、耳が痛い。
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by bonnjour | 2010-12-17 19:02 | 暮らす