B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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年末帰省日記 その1:飛行機に乗り遅れた!
年末恒例の相棒実家への里帰り。生まれて初めて飛行機に乗り遅れた! 予約できた航空券は、我が家から列車で4時間弱かかるコペンハーゲン空港からブリュッセル経由でニースに向かうという非効率的なルート。コペンハーゲンに飛行機出発の2時間半前に到着する列車を選んだのだが、それが遅れに遅れ、コペンハーゲン中央駅に着いたときにはすでにチェックイン締め切りの20分前になっていた。空港行きの列車がすぐに来ればギリギリで間に合うはずだったが、停車している列車はいっこうに動き出そうとせず、プラットフォームは旅行客であふれかえっている。なんと火災報知機が作動したので運転を見合わせているところだった。約20分後に正常運転に戻ったものの、これでますます空港到着が遅れてしまった。

ということで空港のチェックインカウンターに行ってみたが、搭乗ゲートを閉めたところなのでもう乗れませんと、つれない返事。仕方なく、チケットカウンターで代替のフライトを手配する。同様に列車の遅延で飛行機に乗り遅れた人たちが列をなしていた。私たちは払い戻し・変更のきかない低グレードのチケットだったので、それをまるまる捨てて新たにコペンハーゲンからニースへの直行便のチケットを購入するはめになった。クリスマスというハイ・シーズンに一人片道225ユーロで済んだのは不幸中の幸いかもしれない(にしても大出費・・・)。

フライトは翌日なのでホテルを探さなければならない。地元なら自宅に帰って出直すところなのだが、名古屋の住民が羽田発の飛行機に乗り遅れたようなものなので、家に戻るわけにもいかず参ってしまった。空港のホテル紹介所(手数料が約1,000円って、高いなあ)で、空港周辺の経済的なホテルを、と頼んで探してもらったのはQuality Airport Hotel Danというチェーン・ホテルで1泊1万円ほど。列車に乗っているときからハラハラ・ドキドキのとんでもない1日だったが、とりあえず快適な部屋でぐっすり眠れたのはよかった。

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↑ 雪が降っていたこともあり、場末感のただようホテル周辺。夕食はホテル近くの中華料理店で中華と寿司(まがい)のビュッフェをやけ食いした。

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↑ ベッドに入って30秒で熟睡してしまったホテル客室。無線LANが無料で使えるのはよかった。
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by bonnjour | 2010-12-22 17:37 | 旅する
ロンドン 音楽(と中華街入り浸り)の旅 まとめ
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12月5日(日)
地元オーフス空港からライアンエアー”空飛ぶ我慢大会”便に乗ってロンドン・スタンステッド空港に。オーフス空港では雪のため出発が遅れるが(写真上)、定刻から40分ほどたって無事に離陸した。ライアンエアーは基本料金を安くして人目をひくかわりに、別料金制の受託荷物や、オンラインチェックインしない場合の高額の手数料など、あの手この手で追加料金を取って収益を上げる商法の格安航空会社だが、空飛ぶ乗り合いバスに徹している姿は、なんだか清々しい。とはいえ、飛行中はひっきりなしに乗務員が物売り(飲食物、新聞、宝くじ、空港と市内を結ぶスタンステッド・エクスプレスの切符、等々)に来るのがちょっとうっとうしいかも。

ロンドン郊外にあるスタンステッド空港からは、これまた格安航空会社イージージェットと同系列のシャトルバス「イージーバス」で市内に向かう。格安航空便同様、便の時間帯や購入時期によって料金が変わるシステムになっているが、私は最低料金の片道2ポンド(265円)で予約でき、ちょっと嬉しい。

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予約した宿はヴィクトリア駅の駅前にある、Comfort Innというチェーンのバジェット・ホテル(写真上)。便利な場所にあるのと無線LANが無料、客室の水周りを最近改装したというところにひかれて予約したが、部屋の狭さは今まで泊まったホテルで一、二を争うかも。これで1泊約80ポンド(ポンド暴落後の今のレートでも1万円少々)取るのだから、ロンドン滞在はお金がかかる。でも、南アジア系のフロント係はフレンドリーだし、ロビーにあるマシンでカフェオレやカプチーノ、ココアなど温かい飲み物が24時間飲み放題なのはうれしい。

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ホテルにチェックイン後はナショナル・ギャラリーに行ってイタリア・ルネサンスとフランドル絵画を中心に見てまわる。「ヴェニス:カナレットとライバルたち」という特別展をやっていたが、常設展を見るだけでもかなりの時間がかかるので割愛する。ギャラリーから程近いところにある中華街で激辛スープに浮かんだ水餃子を食べてホテルに戻った。

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12月6日(月)
工芸品の宝庫、ヴィクトリア&アルバート博物館に長々と滞在。東洋コレクションでは日本の根付にあらためて感心し、ヨーロッパの宝飾の展示では大量の宝石が放つ妖気に圧倒される。改装のため、服飾の展示室が閉鎖され、収蔵品が他の展示室に分散していたのが残念。

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この博物館は工芸品をコレクションしているだけあって、トイレの洗面台のデザイン(写真上)も一筋縄ではいかない。上部の円筒状物体から液体石鹸が出て、下のパイプに手をかざすと水が自動的に噴き出す。噴水のイメージなのだが、水の噴き出し口はリング状になっているので、かなり無駄がありそう。女子トイレで写真を撮る、怪しい東洋人観光客のわたし。いえ、盗撮はしてませんから。

そのあと、またもや中華街に行き、昨日は時間が遅くてできなかった飲茶で点心を色々と注文し、満腹の後は中華街から徒歩圏にあるナショナル・ポートレート・ギャラリーで一日をしめくくる。所蔵品のひとつ、ブロンテ3姉妹の有名な肖像画(写真下)は、一家の唯一の息子で、画家や作家を志すも芽が出ないまま若死にしたブランウェルの手によるもの(これじゃ画家として有名になるのは無理だろうと妙に説得力のある絵)。当初は中央に描かれていた作者の自画像が自身の手で消され、作家として後世に名を残した3人の姉妹の姿だけが残っているのが、一人息子として溺愛されながらも不遇で、酒びたりになって死んだ彼の人生を象徴しているようだ。もちろん、大画家による美術的に価値の高い肖像画も多数展示されていたが、一番気になり心に残ったのは、非凡な姉妹たちのおかげでかろうじて美術館に展示されることになった、ブランウェル・ブロンテの下手糞なこの作品だ。

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12月7日(火)
日本から音楽鑑賞の旅にいらしたブロガーのgalahadさんと一緒にヘンデルの旧居を博物館にしたヘンデル・ハウスを見学。ドイツで生まれイギリスで活躍したヘンデルが1723年から死去する1759年まで、36年の長きにわたって暮らした家で、往時の状態をよく保存してあり、彼の生活ぶりがうかがえる。決して豪華ではないが、ロンドン中心部にこのような居心地のよさそうな邸宅を構えていたヘンデルは、たいした成功者だったのだと思い知らされる。

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↑ 公式写真より。

ヘンデル・ハウスで「今夜はアンドレアス・ショルのコンサートに行くんだ♪♪」と、案内係のおばさまに嬉しそうに話すイギリス青年を発見。続いて、「共演者はジャルスキーって人なんだけど、何をする人かな?ピアニスト?」というので、「そのコンサート、私たちも行くんですよ」と会話に割り込んだ。そしてジャルスキーはフランスを中心に大人気のカウンターテナーであること、今晩のプログラムは人気カウンターテナー二人の話題の共演であることを熱っぽく語ってしまった。ショルはイギリスのクラシック界で大変な人気を誇るが、ジャルスキーの知名度は、まだヨーロッパ大陸から海峡を渡っていない感がある。

夜はショル&ジャルのジョイントコンサートでパーセルの世界を満喫。ヘンデル・ハウスで会った人も、きっとジャルスキーの才能のほどを実感しただろう。

12月8日(水)
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galahadさんとテート・ブリテン美術館で待ち合わせ、美術館内のカフェでランチをともに。頭の回転が早くて話題豊富なgalahadさんと、とても楽しい時間を過ごした。

その後、こりずにまた一人で中華街に赴き、前回と同じ店で飲茶をする。ロンドンまできて中華三昧というのも芸がないが、ヨーロッパで美味しい中華料理が食べられる都市はロンドンとパリくらいしか知らないので、どうしても足が向いてしまう。

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新世界大酒家というこの店は、蒸し物、揚げ物、焼き物など、多種多様の点心を載せたワゴンが店内を巡回し、お客は好きなものを選んで取るという形式。昨年、盟友Nさんと来て気に入った店。プリプリの海老が入ったシュウマイ、蒸し餃子類がとりわけ美味しかった。

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夜はバルトリ&ファジョーリのコンサートに圧倒される。目(美術館)と舌(飲茶)と耳(コンサート)を大満足させる一日であった。

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12月9日(木)
大学時代の同級生でロンドン在住が長いT君が昼食に付き合ってくれた。メイフェア地区にある、T君おすすめのパイの名店であるパブ「Windmill」(写真上)でステーキ&キドニー・パイを食べる。キドニー特有の臭みをあまり感じさせない見事な出来に「イギリスに美味いものあり」と感心する。卒業後に海外に根を下ろした同窓生は少なくないが、T君もそのひとりで、ロンドンで生まれ育ったお子さんたちはもうすっかりイギリス人だ。本人は謙遜するが、大変に優秀で才能のあるお子さんたちのようで、将来は日本のルーツをもったイギリス人としてカズオ・イシグロみたいな活躍をするかもしれない。

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英国料理を堪能したあとは、夜まで市内をぶらぶら観光。テムズ河のほとりやシティ周辺を、あてもなく歩く。日中は晴天だったが、短い日が落ちると、かなり寒い。それでもせっかく来たのだからとロンドン大火記念塔やタワーブリッジ、倉庫地帯を再開発したバトラーズ・ワーフなど、観光名所をコートの襟を立てて根性で見て回る自由は一人旅の醍醐味だ(同行者がいたら、非難ごうごうだからね)。

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↑ 実物を見たかった30 St Mary Axe、通称「ガーキン(ピクルス用キュウリ)」ビル。シティにそびえたつヘンテコな形の超高層ビル(設計:ノーマン・フォスター卿、竣工:2004年)で、私は座薬を連想したが、この流線型はビルが起こす乱気流を和らげるために計算されたものだとか。

翌日早朝のフライトに備えて、夜はスタンステッド空港近くのホテルに移動。可愛らしいインテリアの広々とした部屋が、空港への往復送迎付きで56ポンド(約7,400円)というのはロンドン市内に比べるとかなりお得だが、シャワーが途中で冷水に変わり、ついぞ温水に戻らなかったのは閉口した。ともあれ、頼んでおいた空港への送迎は往復とも正確・確実に運行されたので(国やホテルによっては、それが難しかったりする)、よしとしよう。

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↑ これでシャワーが冷水でなければ言うことないのだが。

12月10日(金)
朝7時10分にロンドン・スタンステッド空港発のライアンエアー便でオーフス空港に到着。コペンハーゲン空港を経由しないと時間と旅費が節約できて便利だ。前日、土産としてイギリス名産のブルーチーズ、スティルトンを買った。家の近くのスーパーで調達したポートワインとともに食すと、これが絶品。

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by bonnjour | 2010-12-10 19:17 | 旅する
バルトリとファジョーリのコンサート@バービカン・ホール
チェチーリア・バルトリが、カウンターテナー界の実力派新人として注目されているアルゼンチン出身のフランコ・ファジョーリを伴って「ヘンデルと彼のライバルたち」と題したコンサートをヨーロッパ各地で行っている。12月8日、ロンドンのバービカン・ホールで行われた回に行った。これはホールが主催するGreat Performersというシリーズの一環となっている。

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実はバルトリを実演で聴くのは今回でやっと2回目で、前回は90年代前半の来日公演だった。モーツアルトやロッシーニを主なレパートリーにする、ものすごい才能をもった若手歌手として盛んにプロモーションされていた頃で、趣味で声楽を習い始めていた私は、彼女のイタリア古典歌曲のアルバムにノックアウトされた。声楽初学者の教材の定番であるイタリア古典歌曲は手垢がついてしまっている感があるが、バルトリのみずみずしい感性で歌われた古典歌曲は、まったく違った芸術世界を構築していたのだ。その時から彼女は私にとって偉大なアイドルだ。もっとも、初めて聴いたときのバルトリはまだ20代の、可愛らしい声をした少女の面影を残す歌手で、お姫様のような裾の広がった古典的なドレスがよく似合った。そんな彼女が20年後には押しも押されぬスーパースターになって、アルバム「Sacrificium」ではアンドロギュノス的なイメージをふりまくまでになるとは思いもしなかった。

共演のバーゼル室内管弦楽団による「リナルド」前奏曲に続き、バルトリが舞台に登場する。アルミーダのアリア「Furie terribili」が今日の1曲目。よく指摘されるように声量はあまりないのだが、役に入りきる感情移入と、多彩な表現を可能にする声楽的テクニックは圧倒的だ。2曲目のアリア「Ah, crudele」に先立ち、レチタティーヴォ・アコンパニャートの「Dunque i lacci d'un volto」が始まると、まるで話している言葉がそのまま音楽になったかのような流麗さ。自分の一部となっている母国語に音楽をのせればいいのだから、イタリア人歌手は有利だけど、まるで名女優のように歌詞に感情と情念を込められる歌手は多くないだろう。この後に披露された様々な技巧的アリアのアクロバット的かつ完璧な歌唱もさることながら、このレチタティーヴォに感銘を受けた私は変わり者かもしれない。

休憩をはさんで後半は、いよいよフランコ・ファジョーリが加わって「ジュリオ・チェーザレ」の抜粋が歌われる。ファジョーリの最初の曲はチェーザレのアリア「Va tacito e nascosto」。狩の喇叭を模したホルン奏者を従えて、堂々の歌唱だ。

生で聴く彼の声はある種の女声アルトに似た印象を受けたが、時折りのぞく男性的な音色がスリリングだ。そして速いパッセージも楽々と歌いあげた2曲目の「Al lampo dell’armi」では、早くもブラボーの声が飛んだ。私が一番注目したのは「Dell’ondoso periglio… Aure, per pieta'」の、アリアの出だし「Aure...」で、永遠に続くと思われるような長く引き伸ばされた1音目の完璧なブレスのコントロールは、ただ者じゃなかった。

そして、バルトリとファジョーリはいつデュエットをやるかというと、最後までじらされて、プログラムの最後に「Caro!... Bella!... Più amabile beltà」が歌われた。バルトリがコンサート・ツアーの相手役に選んだだけあって、彼女がファジョーリに寄せる信頼と、ファジョーリがバルトリに対してもつ尊敬の念が感じられるようなデュエットだった。

バルトリの舞台での存在感は神々しいまでで、なんというか、女神の域に達している。そして80年代生まれ(!)という若いファジョーリは、実年齢のはるか上をいく完成度で、この先どんな歌手になるのだろうかと楽しみというよりは、末恐ろしい感じだ。フランコ、おそろしい子!
(by「ガラスの仮面」の月影先生)。

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↑カーテンコールにこたえる女神とおそろしい子。

なおフランコ・ファジョーリの最新情報は、アルチーナさんのブログに詳しい。

【プログラム】

Handel and his Rivals

Handel Ouverture from Rinaldo
Handel 'Furie terribili' from Rinaldo
Handel ' Dunque i lacci… Ah, crudele' from Rinaldo
Handel ' Scherza in mar' from Lotario
Veracini Ouverture No 6 in G minor - Allegro
Handel ' Ah, mio cor', from Alcina
Porpora Ouvertures from Cantatas Gedeone' and 'Perdono, amata Nice -

Adagio – Spiritoso andante – Allegro
Handel ' Ah, che sol per te, Teseo… M’adora l’idol mio' from Teseo
Handel ' Mi deride… Desterò dall’empia Dite' from Amadigi

Handel Scenes from “Giulio Cesare in Egitto”
Ouverture
' Va tacito e nascosto'
Sinfonia 'Il Parnasso'
'V’adoro pupille'
' Al lampo dell’armi'
Che sento, o dio… Se pietà'
'Dell’ondoso periglio… Aure, per pieta'
Da tempeste
'Caro!... Bella!... Più amabile beltà'

Kammerorchester Basel
Cecilia Bartoli mezzo-soprano
Franco Fagoli Countertenor

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by bonnjour | 2010-12-08 11:44 | 旅する
ショルとジャルスキーがロンドンでパーセルを歌った
日々の雑事に心を奪われているうちに半年あまりブログの更新をさぼってしまった。はじめ9月に予定されていたドイツへの引っ越しは土壇場になってから来年に延期になり、まだデンマークにいる。夏休みにはドイツ・スイス・フランスへの列車の旅、秋には日本への里帰りと台湾食い倒れ一人旅、そして日本からデンマークに戻る途中ではイスタンブールに立ち寄って(日本行きのチケットを探したらトルコ航空が一番安かったのだ)壮大なモスクに圧倒された。今年はなんだかふらふら旅行ばかりしていて、大反省である。でも記憶が薄れないうちに、後付けではあるが空白の半年のサマリーをブログに記録しておかねば、なんて今さらのことを考えている。

で、気を取り直して最新のコンサートの感想など書いてみたい。

今、ロンドンに来ている。アンドレアス・ショルとフィリップ・ジャルスキーが組んだ、ヘンリー・パーセル作品だけを集めたジョイント・コンサートと、チェチーリア・バルトリが新星カウンターテナーのフランコ・ファジョーリを伴って開く「ヘンデルと彼のライバルたち」という面白そうなプログラムを聴くためだ。この二つの公演、嬉しいことに1日違いで、場所も同じバービカン・ホールだ。バルトリの公演はショル&ジャル組に比べてチケットがかなり高いのは、彼女の人気や知名度を考えると仕方ないこと。この機会を逃してなるものかと、今年2月に早々と両方のチケットを買ってしまった。

で、今日はカウンターテナー界の人気者2人が組んだパーセル・プログラムに行ってきた。ドイツ人とフランス人のカウンターテナー歌手が、フランスを主な活動の場とするバロック・アンサンブル(ジャルスキーが音楽院仲間と結成した「アンサンブル・アルタセルセ」を伴って、イギリス音楽史の至宝ともいえるパーセルの曲をロンドンで(!)歌うという、意欲的な企画だ(なお、同じプログラムでヨーロッパ各地をツアーすることになっており、今日が初日)。

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結論からいうと、二人の歌手の互いに大きく異なる音楽的スタイルや声質が、パーセルという英語のレパートリーを得て、非常に面白い化学反応を起こしたと思う。プログラム構成は、器楽曲をところどころにはさみながら、ショルとジャルスキーのソロおよびデュエット曲をつなげていく形。ソロ曲は温かさと深みのあるアルトの声のショルと、澄み切って流麗な声(声域はメゾソプラノに該当する)をもつジャルスキーの個性を生かした選曲で、デュエット曲ではこの二つの声が取り合わせの妙ともいうべき素晴らしいハーモニーを生み出した。カウンターテナーというニッチな世界では超ビッグネームである二人の歌手を組ませたキワモノの企画かと思いきや、二人の音楽に対する真摯な思いが伝わってくる、きわめてまっとうなプログラムだったのだ。アンサンブル・アルタセルセの演奏も好演だった(バロック・ヴァイオリンの超絶技巧プレイヤー、アレッサンドロ・タンピエーリが演奏の合間に合唱に加わった1曲では、彼が素晴らしい声をもっているのに驚いた。多才な人だ)。

この企画に関しては昨日(12/6)のGuardian紙にショルとジャルスキーの興味深いインタビュー記事が載っている。それによると、二人で共演するという話は2年前にショル側から出て、コンサートのテーマにパーセルを提案したのはジャルスキーということだ。プログラムを組んだのもジャルスキーで、最終版ができるまでに10通りの案を考えたとのこと。プログラム全体を通して一つのドラマが表現されるような、巧妙な構造になっているのはさすがだ。

これもGuardianの上記記事からだが、ショルは以前、あるインタビューで「カルメンを歌ってみたいな」と言ったそうだ(じっさい、彼はドミニク・ヴィス、パスカル・ベルタンと組んだオムニバス盤でカルメンの「ハバネラ」を歌っている。とても端正で清潔な感じのするジプシー女だった)。その話をきいてジャルスキーは「なら僕がミカエラを歌うよ」といって爆笑。音楽の可能性は果てしないのだ。

そしてプログラムの一つであるデュエット曲「My dearest, my fairest」に関しても触れている。この曲はラブソングであり、男二人で歌うのはちょっとアブナイ感じがする。しかし、ステージで歌うときに「My fairest」と呼びかける相手は必ずしも共演者でなく、聴衆に対しての呼びかけであってもいいではないか、というのが彼らの解釈だ。それにこの曲を女声の二重唱で歌うケースは多くて、それは何の抵抗もなく受け入れられている。なぜ女声がよくて男声だといけないのか、というのは私たちの中にあるジェンダーの固定観念への疑問になるだろう。

さて、今夜のコンサートで残念だったのは、ショルがどうも風邪をひいているようで、コンディションが最悪だったこと。声に張りがないし、ブレスの際にゼイゼイするような音が聞こえたうえ、思わず咳払いする一瞬もあり、無事に歌い終えてほしいと祈るような気持ちになってしまった。生身の人間だから身体の不調はいつやってくるかわからないが、早く治して次のコンサート地ではベストの体調で歌ってほしいものだ。

ジャルスキーはいつものように非常によく通る声でデリケートな歌唱をきかせてくれた。なかでもNow That The Sun Has Veiled His Light (An Evening Hymn)は、最後のリフレインのHallelujahがとても印象的で、出色の出来だったと思う。プログラムの流れをさえぎって大きな拍手がわいたのもうなずける。

ショルはアンコールのCold song(King Arthurより)がとても迫力があり、ブラボーの嵐になった。私がこの曲を初めて聴いたのはクラウス・ノミの録音で、いうなれば自分の中では独特の色が付いちゃっているのだが、もちろんショルの歌唱はスタイルの面でも声質の面でも(ついでにテクニックも)ノミ版とは異なる。とはいえ、同じドイツ人歌手という点で、ショルがこの曲を取り上げると誰しもがノミに言及したくなるのかもしれない。

↓クラウス・ノミ版のCold Song


アンコールはショルのソロが1曲、ジャルスキーのソロが1曲、最後に二人のデュオが1曲と、バランスを考えた選曲(曲目は下記参照)。デュエット曲の「Hark! How the songsters of the grove」は、ちょっとした歌合戦的な演出がしてあって、笑わせてくれた。ショルがバリトンの声域で歌った一節はなかなかの出来。ジャルスキーも途中で一瞬、バリトン声域に降りてきたが、「カウンターテナーっていう天職が見つかってよかったね」と思わせる声なのはご愛敬だ。

会場ではブログでお付き合いさせていただいているロンドン在住のdognorahさん椿姫さん、そして日本からいらしたgalahadさんなど、沢山の方と直接お目にかかることができたうえ、今年5月にマドリッドのテアトル・リアルで知り合ったフランス人マダムCさんおよびMさんとも偶然会っておしゃべりができて、とても楽しかった。

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追記:パリで12月11日に開かれる同じプログラムのコンサートのライブ録音を、フランスのラジオ局radio franceが1月3日に放送する予定で、局のウェブサイトでも聴ける。ただし通常は可能なオンデマンドの再放送が、この録音に限っては行われないため、ご注意。

日時:2011年1月3日(月) 12:30-14:00 (フランス時間)*日本では1月3日20:30-22:00
放送局:france musique (radio france)
番組名:Concert de midi et demi


【プログラム】

Overture: Bonduca
Hark how the songsters of the grove - Duet
Fairest isle - Philippe Jaroussky
Strike the viol - Andreas Scholl
Hark, hark each tree - Duet

Abdelazer suite (overture + autre pièce + célèbre rondeau )

In vain the am’rous flute - Duet
Now that the sun - Philippe Jaroussky
One charming night - Andreas Scholl
Sound the trumpet - Duet

***** Interval *****

Overture: Fairy queen
Bid the virtues - Philippe Jaroussky
Either this way - Philippe Jaroussky
Sweeter than roses - Andreas Scholl
O solitude - Andreas Scholl

Suite - Fairy Queen

My dearest, my fairest - Duet
Music for a while - Andreas Scholl
O let me weep - Philippe Jaroussky
Now the night - Duet

***** Encore *****

"What Power art thou (Cold song)" from King Arthur - Scholl

"See even night herself is here" - Jaroussky

"Hark! How the songsters of the grove" from semi-opera "Timon of Athens" -

Duet

Ensemble Artaserse
Andreas Scholl countertenor
Philippe Jaroussky countertenor

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by bonnjour | 2010-12-07 13:50 | 旅する
ストックホルム1.5泊の旅日記 1日目Part2 パーセルの夜は更けて
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公式写真より

フィリップ・ジャルスキーと彼が結成した古楽演奏団体「アンサンブル・アルタセルセ」による、ヘンリー・パーセル(1659?-1695)作品のみのプログラム。今年のストックホルム古楽フェスティバルは、このコンサートで幕を開けた。

器楽合奏によるヘ長調のソナタ(Z793)に引き続き、ステージ前方に進み出たジャルスキーが歌い出したのは「Tis Nature's voice」(「聖セシリアの日のためのオード」より)だ。クリーミーでいて透明な声が、北国の古い教会の堂内に立ち昇り、ふんわりと消えていく。今日、この場にいられる幸せを心から感じた一夜だった。

Stockholm Early Musice Festival
June 9, 2010
"A Purcell Night"

Philippe Jaroussky, contre-ténor
Ensemble Artaserse:
Luis Beduschi, flûte
Margret Görner, flûte
Alessandro Tampieri, violon 1
Raul Orellana, violon 2
Christine Plubeau, viole
Richard Myron, basse de viole
Claire Antonini, théorbe
Yoko Nakamura, orgue et clavecin

【プログラム】
Sonata in F major (Z793)
'Tis nature's voice
Strike the viol
Viol solo after "Crown the altar"
Not all my torments
O solitude
Sonata in G minor (Z806)
Wondrous machine
Sweeter than roses
All the night

=== Intermission ===

Sonata in B minor (Z802)
An evening Hymn
Lovely Albina
Chaconne for solo flute in G minor (Z730)
Bid the virtues
Music for a while
Sonata for violin in D major (Z801)
O let me weep
See even night

=== Encore ===
If love's a sweet passion








コンサートが終わり、帰り支度をしていたら出口のところに何やらスウェーデン語の掲示が出ていた。英語と乏しいデンマーク語の知識から類推すると「コンサート後にジャルスキー氏がどこそこでサイン会やります。どなた様も参加歓迎」と書いてあるようなので、これ幸いと会場である教会敷地内の別棟に向かった。スウェーデン人はシャイで無口なのか、サイン会はお通夜みたいな静けさで始まったのだが、2、3人にサインした後でジャルスキーが「うーん、今日はすごく静かだね!」と言ったので一同は爆笑。そこから空気が和んだ。

2週間前のマドリッドに続き、今度はストックホルムにやってきた私を見つけて彼は「えっ、どうしてあなたがここに!!」と驚いた様子だったので、自分はデンマークに住んでいるからストックホルムは近場で、初のパーセル・プログラムをどうしても聴きたくて飛んできたと説明した。歌詞のひとつひとつが、とても心に響いたと感想を言ったら、顔をぱっと輝かせて「ありがとう!」。

1週間ほど前まで「ポッペアの戴冠」の公演に没頭していたので、その直後にパーセル・プログラムを開始するのは頭の切り替えが大変だったとのこと。年末にヨーロッパ各地で予定されているアンドレアス・ショルとのジョイント・コンサートでもパーセルを集中的に取り上げるので、今はパーセル作品に熱中しているそうだ。ゆくゆく、5~7年後くらいにはディスクを出せるといいなと言っていた。

コロラチューラの技巧を聴かせるヴィヴァルディやヘンデルのアリアが本領だと思われがちな彼だが、本当はパーセル作品のような内的世界を表現する音楽(昨年ディスクを出したフランス歌曲も、その系統である)を志向していることが、言動の端々からうかがえる。音楽マーケティングの観点で要求されるレパートリーと、自らが目指す芸術性の間で、なんとか上手にバランスを取ろうとしている姿が感じられた。


地元TV局による音楽祭のレポート。

↓ 開場の前。ドイツ教会の門の前には長蛇の列ができた。というのも会場が教会という構造上、座席は2つのカテゴリー内で自由席となっていたからだ。並んでいる聴衆に音楽祭スタッフがプラスチック・カップに入ったサイダーを配ってくれたのは嬉しい心配り。

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↓ 幕間にステージ近くまで行って美しい楽器をしばし眺めた。

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↓ コンサート終了後。夜の11時半過ぎだが、空はうっすらと明るい。

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↓ こういう夜は、まっすぐ帰宅したくない。ホテルのすぐ近くのカフェでワインをひっかけて帰った。

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by bonnjour | 2010-06-09 20:16 | 旅する
ストックホルム1.5泊の旅日記 1日目Part1 市内観光は寝不足により途中で挫折
ストックホルム市内に朝9時に到着し、旧市街のホテルに荷物を置いてそのまま市内観光するも、中途半端な夜行列車でほとんど寝ていないので睡魔に襲われて途中で断念。==>ホテルで爆睡。==>その晩。音響が抜群だった「ドイツ教会」での「パーセルの夕べ」。ジャルスキーのパーセル・プログラムは新しいレパートリーで、今夜が世界初のお披露目なのだそう。自ら結成した「アンサンブル・アルタセルセ」(ヴァイオリンには昨年のラルペッジャータの来日公演で超絶技巧をきかせてくれたアレッサンドロ・タンピエーリが参加)と息の合った、素晴らしい演奏だった(コンサートについてはPart2にて)。

↓ ストックホルムは「北欧のヴェネチア」なんだそうで、14の小島から構成される複雑な地形となっている。水辺の風景は心が安らぐ(でも冬場は寒そうだ)。

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↓ スウェーデン王室の次期王位継承者は、国王カール16世グスタフとドイツ出身のシルヴィア王妃との間に生まれた1男2女の長子であるヴィクトリア王女だが、王女は6月19日に長年の交際相手であるダニエル・ベストリング氏(トレーニング・ジム経営)と結婚する。ということで、街の中は祝賀ムードいっぱい。商店では二人の肖像の入ったグッズが売られている。

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↓ 王宮の前を通りかかったら幸運にも衛兵交代式をやっていたので、しばし見学した。実は「衛兵交代式」というものを生まれて初めて見た。

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↓ 旧市街にあるノーベル博物館を見学する。アルフレッド・ノーベルの生涯や歴代のノーベル賞受賞者の功績についての展示。1フロアだけの小規模な博物館だが、同じ建物の2階にはノーベル文学賞を選考・授与しているスウェーデン・アカデミーが入っている。併設のカフェでは「かつてノーベル賞授賞式の晩餐会で供していたのと同じレシピのアイスクリーム・パフェ」というのを出しているが、あやかっても仕方ないので食べなかった。英語のガイドツアーをやっていたので参加したが、途中で睡魔に襲われ(立った状態で眠りそうになるのは久しぶりの経験)、その後の観光を断念した。

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↓ ホテルに戻る前に本日のコンサート会場である「ドイツ教会」を下見に行く。教会の近くの道には音楽祭の横断幕が掲げられていてお祭り気分が盛り上がる。

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↓ 奥に見える鐘楼のある建物が、17世紀にハンザ同盟のドイツ人商人が資金を出し合って建立したドイツ教会(Tyska kyrkan)。ストックホルムはハンザ同盟都市との交易で栄えた歴史をもつ。狭い路地の先に、あまりに高い鐘楼を持つこの教会が建っているものだから、地上から全容の写真を撮ることはできない。でも遠くから鐘楼だけが突出して見えるのも、なかなかいいものだ。

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↓ 教会の隣(手前の建物)には音楽祭のチケットセンターが設けられている。用があって窓口に並んでいたら関係者の男性が「奥に椅子があるから、そこに座って待っていたら?」と声をかけてくれた。あとで音楽祭のプログラムを眺めていたら、その男性は音楽祭の芸術監督で作曲家/指揮者のペーター・ポントヴィク氏(Part2記事のYouTube動画ご参照)であることに気付いた。

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↓ チケットセンターの壁に貼られていた音楽祭の歴代のポスター。2004年にはショル兄が登場(左下のポスター)。

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↓ ここが教会の入り口。

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↓ 重厚で豪華な教会の内部。

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↓ コンサートに備えてハープシコードを調律中だった。

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↓ 旧市街にて、本屋のショウウインドウ。そういえば昔はスウェーデンといえば「フリーセックス。うひひ...」という脊髄反射があったなあ(古い?)。

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↓ これも旧市街の、有機食材を使ったパン屋さん。実はスウェーデン在住の友人に、「スウェーデンのパン屋の流れを変える10軒!」に選ばれたパン屋さんや、絶品のレバノン惣菜屋さん(<==スウェーデンは移民が多いのでエスニック料理が充実)の場所を事前に教えてもらったのだが、睡魔に襲われて心の中は「ホテル...ベッド...爆睡...」で一杯となり、たどり着けなかった。残念。

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↓ コンサート会場から近いことを条件に選んだホテルは、ドイツ教会から徒歩3分ほどのこじんまりした可愛い宿。17世紀の建物だそうで、そこかしこに置かれたアンチック家具は婦女子が喜びそうだ(はい、喜びました)。しかし3つ星でシングル1泊約180ユーロ(円高が進んだ現在でさえ約2万円)という料金設定は、やっぱり物価高の北欧ならではだ。

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↓ そしてこの部屋でコンサートの時間まで爆睡したのであった。

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by bonnjour | 2010-06-09 10:30 | 旅する
ストックホルム1.5泊の旅日記 0日目 突然思い立ち
モンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」を見にいったマドリッド旅行から自宅に戻ると、ネットでオーダーしていたイギリスの音楽雑誌「Early Music Today」が届いていた。そいつをパラパラめくっていたら、こんな広告が目に入った。

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ストックホルム古楽フェスティバル。6月9日のオープニングはフィリップ・ジャルスキー&アンサンブル・アルタセルセによる「パーセルの夕べ」だって。デンマークにいるのもあと3カ月となり、やり残したことは色々あるが、そういえば近場のスウェーデンには3時間ほどしか滞在したことがない(3時間とは、コペンハーゲンの対岸のスウェーデン南部の都市、マルメに友人を訪ねていった小旅行)。これは何かの啓示に違いないと勝手に自分に言い聞かせ、コンサートのチケットとストックホルムまでのフライトを電光石火で手配してしまった。

フライトが朝7時コペンハーゲン発なので、前夜火曜日の23時に最寄駅からコペンハーゲン行き特急に乗り、空港駅に着いたのは水曜の午前3時半(それにしても変なダイヤを組むものだ。この列車、空港に行く人で結構混んでいた)。同じように早朝のフライトを待つ人たちにまじり、空港のベンチで夜が明けるのを待つ。朝6時に開く空港ラウンジでコーヒーとペストリーをそそくさと頂いたあと(このラウンジで早朝から酒をあおってる人がいて驚いた。さすがの酒豪の私もこの時間帯は酒を見るのもいやだ)、ストックホルム行きの飛行機に乗り込む。
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by bonnjour | 2010-06-08 08:58 | 旅する
マドリッド旅日記 その5 もういちど「ポッペアの戴冠」へ
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グルメのCさんの提案で、昼食はシーフードが絶品と評判の「El Barril」というレストランに行く。はじめ渡されたメニューがスペイン語で解読に苦労したのだが(持参した自作の単語表はまったく役に立たなかった)、きいたら英語版もあるのでそれをもってきてもらった。
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前菜は、スペイン滞在中に一度は食べておきたいねとCさんと話していたタコの料理を頼む。ウェイターさんがシェアをすすめてくれたのでそうしたが、確かに1皿が大変なボリュームだった。あまり手を加えず唐辛子とオリーブオイルで味付けしたタコは、ボトルで頼んだよく冷えたCavaによく合う。メインは「アンコウのソテー エビとハマグリ添え」を頼んだ。ゼラチン質の白身が美味しい。デザートはパイにこってりしたカスタードをはさんだもの。大満足のランチだった。

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本日のメインイベントはオペラ「ポッペアの戴冠」をもう一度見ること。主役級の急なキャンセルに備えて、日にちを少しあけて2回の公演を確保しておいたのだ。前回(金曜)は138ユーロの席を奮発したが、今日は49ユーロの天井桟敷(Paraiso=”天国”)だ。うきうきした気持ちで最上階に行く。

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天井桟敷のエリアは、劇場のWebサイトで平面図を見たときには舞台からはるかに遠いように感じられたが、実際に座ってみると自分の席が正面に位置することもあって舞台が非常に見やすい。音が届かないのではないかという最初の心配も、前奏が始まってからすぐに払拭された。



舞台装置はシンプルで、回り舞台でネローネの宮殿と、ポッペアの邸宅、ポッペアの讒言で自殺に追い込まれる哲学者セネカの邸宅が切り替わる。セットの色調はモノクロと青みがかかった大理石模様でスタイリッシュな感じ。黒っぽい大理石のどっしりとした寝椅子が舞台前方に置かれ、効果的に使われている。

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今日もメインの配役の調子は絶好調で、天井桟敷にもよく声が届いた。とくに皇后オッタヴィア役のアンナ・ボニタティブスは豊穣な響きのある力強い声の持ち主だ。ポッペアを暗殺しようとしたことが明るみに出てローマを追放される終盤では、アリア「さらばローマよ」の冒頭の「A-a-a-addio, Roma」と、うめくような劇的な「ア」の音が心に残った。ポッペア役のダニエス・ドゥニースは元気でイキイキしているのはいいが、細かい心の動きを表現する繊細さに欠けると感じた。フィナーレのネローネとの愛の二重唱「Pur ti miro, pur ti godo」も、なんだか味気なく終わってしまって残念だった。

ネローネ役のフィリップ・ジャルスキーは高音がよく伸びて美しい。硬質で澄んだ声の持ち主なので、彼が歌うネローネには凶暴な権力者というより、夢見るような少年の面影を見てしまう。ポッペアの夫、将軍オットーネ役のマックス・エマニュエル・チェンチッチはしっとりと落ち着いた声で抜群の安定感があった。ジャルスキーもチェンチッチも、たっぷりの声量で劇場を一杯にするタイプの歌手ではないが、テアトル・レアルの音響は彼らのデリケートな声を味わうのに適していると思った。

ポッペアの侍女アルナルタはテノールのロバート・バートが演じたが、コミカルな味は出ていたものの、声の魅力という点では物足りなかった。とりわけポッペアを寝かしつける子守唄「Oblivion soave」は、昨年出たラルペッジャータのアルバム「Teatro d'Amore」に収録されているジャルスキーの抒情的な歌唱や、フォン・オッターがアルヒーフから出したバロック・アルバムでの透明感ある歌唱に馴染んでいるので違和感があった。もちろん、メゾやカウンターテナー歌手がこの曲を演奏会用作品として歌うのと、テノール(年老いて女性的外見を失った乳母役は伝統的にテノール歌手が担ったときく)がオペラという物語の中で歌うのでは、比較することじたい無理があるのだが。

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↑ フィナーレの二重唱で見つめあうポッペアとネローネ。

今日の席は舞台を上から見下ろす形だったので舞台上の歌手の動きを立体的に把握できたのがよかったし、オペラグラスを使えば細かい演技も見ることができた。このほか劇場内には、舞台が見づらい席のためにモニタースクリーンが用意されていた。その画面を見ていたCさんの話によると、第2幕6場でネローネと悪友ルカーノ(テノールのマチアス・ビダル)が歌う二重唱「Hor che Senca è morto, cantiam(セネカは死んだ。さあ歌おう)」では、ポッペアの美しさを称える歌詞と裏腹に、二人がホモセクシュアルな行為に走り、あろうことかネローネの股間をまさぐるルカーノの手がアップでモニターに映し出され、観客は唖然としたそうだ。ちなみにこの舞台はDVD化予定のようだ。

この場面はよほど印象的だったようで(笑)、さっそく公演の音源(5月18日に地元ラジオ局がライブ放送した)を使ったクリップがYouTubeにアップされているのでご紹介する。



上のクリップの映像は手稿譜なので今ひとつ見にくいが、4:28~4:50あたりは印刷楽譜だと下記のようになっている。2段目のメリスマ音型とそれに続くパートを歌っているのがルカーノで、その上に乗っかる1段目の「Ahi, Ahi, Ahi」というため息のような音符がネローネ。歌詞ではポッペアの美しさと性的魅力を称えるうちに感極まってネローネが失神するのだが、今回の演出では別の理由でイッてしまう。下記楽譜の最後の3小節、「Ahi, Ahi, Ahi, destino(ああ、ああ、ああ、運命だ)」というあたりがそのシーンになるが、音と楽譜をシンクロさせて見ているうちに、登場人物2人の振りつけを思い出して顔が赤らんできた。

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↑ 二重唱のシーンのルカーノ(右:マチアス・ビダル)とネローネ。ネローネの胸に手を入れるわ、変なところをまさぐるわ、唇に接吻するわで、とんでもないお友達どうしだ。

舞台が終わったあと、また楽屋口で前回のフランス人マダム2人組に会ったので自己紹介や世間話をしながらジャルスキーが出てくるのを待った。ほどなく彼が登場したので「ルカーノとの二重唱には驚嘆しましたよ」と感想を言ったら、この晩の出来は今までで一番よかったとのこと。そして舞台でのパフォーマンスは日増しに変化しているとも。論議を呼びそうな男同士のラブシーンについては「ネローネは熱狂しながらも怖がっているんだ。自分がストレートでいられるかどうかの瀬戸際だからね」と説明してくれた。ふむふむ、彼は複雑なネローネのキャラクターを表現したいとインタビューで答えていたが、これも複雑さの要因の一つになっているかも。

徒歩で劇場にほど近い宿舎に帰るジャルスキーを、ホテルが同方向にあるフランス人マダム2人とCさん、そして私とで歩きながら見送った。普段着にかばんを提げた姿は一仕事終えた勤め人といった風情がしなくもなく、街の風景にすんなりと溶け込んでいるのが面白い。

そのあと、マダム2人組とCさんと私は近くのカフェに行った。お嬢さんが音楽院でヴァイオリンを専攻しているというClさんと、ジャルスキーが21歳でデビューしたコンサートに居合わせて以来、彼の活動を見守っているというMさんは、ともにパリ在住で、このオペラを見にマドリッドにやってきた。今夜を入れて3回(!)の公演に接し、明日パリに帰るという。音楽の話をして盛り上がり、連絡先を交換して別れた。こうしてコンサートで知り合いが増えていくのは楽しい。
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by bonnjour | 2010-05-24 12:09 | 旅する
マドリッド旅日記 その4 美男に会いにトレドへ
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エル・グレコ作「トレドの風景」
日曜日。マドリッドから国鉄(renfe)の高速鉄道AVANTに乗ると30分で行ける古都トレドをCさんと一緒に訪ねた。短距離なので切符はすぐに買えるものと油断していたのだが、全席指定のAVANTの切符は窓口のみの販売で、番号札を取ったものの大変な待ち人数だ(客一人あたりに要する処理時間を「みどりの窓口」と比べてはいけない)。結局、目星をつけていた列車は出てしまい、1便後の切符が買えた(計画性のなさを反省)。

AVANTの出発するホームは飛行機の搭乗口のムード。乗車の前にX線の荷物検査がある。
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私は「鉄子」ではないが、一応記録のために列車の写真も撮っておいた。
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あっというまにトレドに着き、まず駅舎の立派なことに感心する。イスラムとキリスト教の建築様式が融合した「ムデハル様式」の建物で、駅舎ホール内部の壁や天井の組み木細工がとりわけみごとだ(写真下)。鉄道駅はもちろん歴史地区の外側に開設された新しい施設だが、味もそっけもない現代建築にせず、歴史的な様式を採用する心意気がよい(似たような例でいえば、善光寺にほど近いJR長野駅の仏閣型駅舎を取り壊してしまったのは暴挙だった)。

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鉄道駅から20分ほど歩いて旧市街に入る。トレドはタホ川の渓谷を利用して築かれた城砦都市なので、中心部に行くにはひたすら坂道を上がっていく。今日はいい運動になりそうだ。

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↑ 12世紀に建てられた城門「太陽の門」。
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旧市街に入ると午後3時前、スペインではちょうどお昼時なのでまずはレストランを探した。「伝統的なパティオ」が売り物のレストランを見つけて入った。前菜、メイン、デザート、飲み物で11ユーロの定食からガスパチョ(本来はアンダルシアの料理だけど今日のように暑い日にはもってこい)、うさぎの煮込み(家庭料理風の素朴な味)、赤ワインを頼んだ。デザートは、しっかりした味のプリンが出てきた。
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食事の後は聖トメ教会にあるエル・グレコ(1541–1614)の「オルガス伯の埋葬」を見にいく。この教会のために多額の遺産を残した篤志家のオルガス伯ルイスが埋葬されるときに、天国から聖ステファノと聖アウグスティヌスが降臨し、埋葬を手伝ったという伝説を描いたものだが、聖ステファノが優美な美男に描かれているので私は前々からこの絵が大好きだ。

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エル・グレコ作「オルガス伯の埋葬」

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↑ 聖ステファノ。ね、美男でしょ?

教会の中にあるオルガス伯の墓所の前から絶対に動かせないという決まりゆえ、この作品を見たければトレドに来なければならず、狭い礼拝堂の中は見学者で一杯だ。しかも下半分にはオルガス伯の埋葬の情景(史実としては14世紀のこと)を、絵が制作された16世紀当時のトレドの名士たちを登場させながらリアルに描き、上半分にはイエス・キリスト、聖母マリア、洗礼者ヨハネなどが揃う幻想的な天界が展開されるという二部構成のため、絵全体を見るのにかなりの時間がかかる。

幸い、団体見学者の波が引いた一瞬があったので絵の真ん前に陣取ってじっくり解読をこころみた。隣に陣取っていた英語圏から来た年配の女性が、この絵の要素を説明したガイド本を見せてくれたのが助かった。二部構成の分け目に位置する天使が腕に抱えるぼんやりした胎児のような物体が亡きオルガス伯の魂で、天使はそれを天上界に押し戻している。魂のぬけたなきがらは地上に埋葬され、魂そのものは天上で永遠の命を得るというわけだ。

しかし、私はそんなことよりオルガス伯のなきがらを抱える美男の聖ステファノが気になっていたことは言うまでもない(笑)。優雅でちょっと寂しげなこの面差しは、一度見たら忘れられないのではないか。

美男詣での後は土産物屋をひやかしたり、見晴らし台から見下ろす風景にエル・グレコの「トレドの風景」の面影を探したりして街歩きを楽しんだ。

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名物のマジパン菓子は見た目が日本の栗饅頭にそっくりだが、味のほうは試していないので不明だ。

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by bonnjour | 2010-05-23 08:27 | 旅する
マドリッド旅日記 その3 ランチのスタートは3時
昨晩のオペラの感激を引きずりつつ、せっかくマドリッドにいるのだから午前中はプラド美術館に突撃する。途中、ソル広場ではチャンピオンズ・リーグ決勝戦を観戦するサポーターたちの総決起集会(笑)に出くわす。朝っぱらからかなりのアルコールをお召しになって出来上がっているサポーターもちらほら。
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プラド美術館には見たい絵が山のようにあるのだが、今日は時間が限られているのでベラスケス、ゴヤ、ボッシュなどの名作をポイント的に見て回る。ボッシュの「悦楽の園」は案の定、大変な混雑で絵がよく見える立ち場所を確保するのに骨が折れた。いつ見ても不思議で現代的な絵だ。この三連祭壇画の右翼は巨大な楽器が人々を拷問する地獄絵図になっているが、その中のひとりの臀部には楽譜(ネウマ譜)が描かれている(昔、グレゴリオ・パニアグワ&アトリウム・ムジケーが、この楽譜を復元して「臀上の音楽」なるアルバムを出したことがあった)。あまりの混みように絵に近付けず、臀上楽譜がよく見えなかったのが心残りである。

↓ 画面左下のリュートの下敷きになっている人物の臀部に注目。
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昼は学生時代の同級生でマドリッド在住のJさんと旦那様、今回の旅の同行者Cさん、そして私の4人で会食。Jさんたちが、パエリャが名物の「La barraca」という有名店を予約してくれた。まず驚いたのはアポの時間。日本なら正午~午後1時ごろにスタートするのが普通だが、今日は午後3時が開始時間。スペインでは食事を取る時間が極端に後ろにずれているのだ。夜型の私にとっては嬉しい習慣の国だ。

パエリャは人数が揃わないと作れないため、4人で2種類のパエリャを注文し、それをシェアする。微発泡性の冷えた白ワインと一緒にいただくパエリャは絶品だった。
↓ イカ墨のパエリャ。
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Jさんは大学の同級生だが卒業以来、コンタクトが途絶えていてつい先月、SNSを介して連絡が復活した。今回のマドリッド旅行で再会できた次第だ。Jさんの旦那様はバルセロナ出身の研究者で、母語のカタルニア語、スペイン語、英語、フランス語など色々な言語に堪能だ。旅の友のCさんは長らくパリを拠点に仕事をしているということで、会食のテーブルには日本語、英語、フランス語、カタルニア語など様々な言葉が飛び交った。家族関係に関するスペインの諺をきいて「そういうのって全世界共通なんだな」と感心したり、Jさんの旦那様の音楽の趣味が結構私と近くて嬉しくなったり、本当に楽しいひと時が過ごせた。そんなつもりではなかったのだが、最終的にJさん夫妻にご馳走になることになってしまい、恐縮の至りだ。
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by bonnjour | 2010-05-22 18:26 | 旅する