B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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相談相手は乳母
先週マドリッドで見てきたモンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」では、男性歌手が演じる二人の乳母が登場した。皇帝ネローネと浮気して最後は略奪愛の勝者となる人妻ポッペアには、相談相手である老いた乳母アルナルタ(テノール)がいる。そしてネローネの正妻オクタヴィアにも乳母(カウンターテナー)が仕えている。

昔の高貴な人々は自分で子育てなぞしないから、名門の娘にとっては幼い頃から面倒を見てくれた乳母が保護者であり相談相手となったわけだ。「ポッペア」の場合は、女主人と乳母はまさに運命共同体で、ポッペアがめでたく皇后の地位を得ることになるとアルナルタが「これで私も皇后付き女官に出世」とはしゃぐ。

「ポッペアの戴冠」で、アルナルタが「すべてをお忘れなさい」といって子守唄「Oblivion soave」を歌い、ポッペアを眠りにつかせるシーンは、しみじみと美しい。



Arnalta: Thomas Michael Allen (T)
Théâtre des Champs-Élysées - Paris
Conductor: Rene Jacobs, Director: David McVicar
バロック・オペラでは乳母役にテノール歌手をあてるのが伝統だったそうで(年老いた女は女性的特質を失ってるってこと?)、メイド服(?)にカーディガンを羽織ったテノールのトーマス・マイケル・アレンがポッペアをやさしく寝かしつける。



Ezio Pinza sings " Oblivion soave" (Claudio Monteverdi)
Fritz Kitzinger, piano
録音:1940年
イタリアの大歌手、バスのエツィオ・ピンツァ(1892-1957)が歌ったバージョンは歌曲的。オペラの筋から離れ、独立した作品として歌っている。



Philippe Jaroussky (CT)
L'arpeggiata (Christina Pluhar) "Monteverdi: Teatro d'Amore"
マドリッドでネローネを熱唱したジャルスキーもアルバム「Teatro d'Amore」でこの曲を歌っているが、乳母というよりは天からの声といった趣きが強い。これも独立作品系。

さて、芸術作品に登場する乳母の中でもっともインパクトが強く、物語を牽引する役割を担うのは、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の乳母だろう。



バズ・ラーマン監督の、舞台を現代に移し替えての「ロミオ&ジュリエット」(1996)から。06:28頃からジュリエット(クレア・デインズ)の乳母(ミリアム・マーゴリーズ)が登場する。ここでは主人であるキャピュレット家が白人であるのに対し、乳母はヒスパニック系という設定。社交に忙しい実の母にかわりジュリエットが心を打ち明ける相手は、この陽気で野卑なほど生のエネルギーにあふれる乳母だ。

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↑ 春日局。乳母といっても、徳川将軍を育てて権力をほしいままにしたこの方たちの位置付けは、西洋の乳母とはちょっと違うだろう。
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by bonnjour | 2010-06-02 18:07 | 聴く&観る
アレクサンドル・タローのショパン作品集 <<Journal intime>>


Journal Intime (私的な日記)」というタイトルにひかれて手に取った1枚。フランスのピアニスト、アレクサンドル・タローが「自分の人生のあらゆる局面に寄り添ってきた」(CDブックレットより)ショパンの作品から16曲を選び、個人的なメモワールとして1枚のアルバムにまとめたものだ。

聴いてみて、これはタイトル通りとても私的なアルバムだと思った。極端に熱くなることも、ショパンへの思い入れを顕示することもなく、自分の人生とともに歩んできた作曲家の作品をモノローグ風に演奏している感じ。

レーベルをヴァージン・クラシックスに移籍しての第1作だそうで、上記のようなプロモーション・ビデオも作られて、レコード会社の意気込みを感じる(イントロ部分は、ちょっと「作りすぎ」の感があるけれど)。ノクターン第20番(遺作)を弾く手元のアップ(ビデオクリップの0:36~あたり)を見て、指をほとんど曲げず手の平全体を鍵盤の上に置き、鍵盤を撫でるように押し下げる弾き方に興味をひかれた。ピアノ奏法に関してはまったく無知だが、これってアルフレッド・コルトーなんかの流儀を受け継ぐものなのか。

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Chopin: Journal Intime
Alexandre Tharaud (piano)

1. Mazurka Op.63, n° 3
2. Ballade n° 1, Op.23
3. Mazurka op.17, n° 2
4. Mazurka op.68, n° 2
5. Fantaisie op.49
6. Nocturne posthume
7. Mazurka op.7, n° 2
8. Ballade n° 2, op. 38
9. Mazurka op.17 n° 4
10. Largo Trois Ecossaises Op.72, n° 3
11. I
12. II
13. III
14. Contredanse
15. Fantaisie-impromptu op.66
16. Nocturne op.9, n°2


↓ こちらは同じくアレクサンドル・タローが、フランソワ・クープランのクラブサン曲「Les Baricades Misterieuses(神秘的な障壁)」をピアノで弾いたもの。速度記号はVivement(活発に)とあるものの、いかんせん速すぎてショパンの練習曲みたいだ。 正統的なチェンバロの演奏では4声の旋律ひとつひとつが際立って聞えるが、この演奏ではピアノ特有の残響の中ですべての声部が渾然一体となっている。チェンバロ演奏の焼き直しではない、クープランを素材にした新たな音楽の構築を目指したのだろうか。ピアノでバロック曲を弾くアプローチとしては面白いと思った。楽譜(IMSLPでクラブサン曲集全巻がダウンロード可能)を参照しながら聴くと、各声部の流れとそれをピアノで弾いたときの効果が対比でき、いっそう興味深い。


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by bonnjour | 2010-05-30 07:54 | 聴く&観る
ヴィヴァルディの2つのグローリア RV 589 & RV 588
20年近く前、所属教会の聖歌隊にふらふらと入り、アルト・パートを歌っていたことがある。中声部は人手不足とのことで歓迎されたが、音取りもおぼつかないのに練習をよくさぼる私は、そのうちに脱落してしまった。日曜朝のミサの後が練習タイムで、寝坊してミサを欠席すると練習にだけ出るのもきまりが悪いので、そのまましらばっくれてしまうことが多かったのが理由だ。他のメンバーの方々はミサも練習も皆勤賞で、かなりレベルの高い合唱グループだった。なによりイタリアに本部のあるゴリゴリに保守的な修道会が任されているこの教会は、典礼における古典音楽を重視していた。重視しすぎて、ネウマ譜でグレゴリオ聖歌を歌わされたのには閉口したが。

この聖歌隊で歌った曲のひとつにヴィヴァルディのグローリア(RV 589)がある。アマチュア合唱団のコンサートなどでもよく取り上げられる曲だが、ある年の復活祭のミサで歌うために半年くらいかけて準備した。といっても全曲でなく合唱部分の抜粋だったのだが、1曲目の明るく輝かしい「Gloria in excelsis Deo」は復活祭という喜びの祝日にふさわしかった。上手な人たちに混じって一人で音程を外しまくっていた自分を思い出すと赤面するが、教会堂後方のバルコニーに設けられた聖歌隊席で声を張り上げるのはストレス解消にもなった(そういう不埒なことを考えるのは私だけで、他の方々は神への奉仕の気持ちをこめて歌っていたに違いない)。

ということで懐かしくもトホホな思い出のあるこの曲を、昨年秋にリリースされたリナルド・アレッサンドリーニ指揮のコンチェルト・イタリアーノ盤(アルト独唱:サラ・ミンガルド)で聴いてみる。これはnaiveの「ヴィヴァルディ・エディション」の一環で、例によってフォトグラファーのDenis Rouvreによる美女のビジュアルが目をひく。ラッキーなことにNaxos Music Libraryにも入っている。リンクはこちら

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↓ こちらがプロモーション・ビデオ。



この盤には有名なRV 589のグローリアのほか、その先駆けともいえる前作のグローリアRV 588、そしてRV 589の導入歌(introduzione)として作曲された「Ostro Picta, Armata Spina (深紅色に彩られ、棘で護られて)」(RV 642)が収録されている。曲順は、Ostro Picta」+ RV 589に続いてRV 588が演奏される。アレッサンドリーニがインタビューで語るところによれば、この2つのグローリアは対照的な性格を持っており、有名なRV 589がよりモダンで劇場的な効果を演出しているのに対し、初期バージョンであるRV 588はポリフォニックな色彩が強い。1枚のディスクでその対比を際立たせたかったそうだ。

ソプラノ独唱(Monica Piccininiが好演)で歌われる伸びやかな「Ostro Picta」は、きらびやかなRV 589のグローリアを先導するのにふさわしい。アリア・レチタティーヴォ・アリアという3部構成のこの曲の、「深紅色に彩られ、棘で護られて」という風変わりなタイトル(「深紅色で描かれた女」と訳されている場合もある)は、咲き誇ったと思ったら夕には色あせている野薔薇を指しており、そんな薔薇に象徴される儚い地上の栄光と、聖母マリアの永遠の栄光を対比させ、聖母を称える聖歌である。

このディスクでは導入歌からアタッカで演奏されているRV 589のグローリアは、同じ演奏者(アレッサンドリーニ&コンチェルト・イタリアーノ)による旧録音(NMLのリンクはこちら)の爆発度(笑)に比べるとずいぶん穏健だが、それでも躍動感のみなぎる演奏だ。サラ・ミンガルドのアルトは、きらびやかなこの曲に深みを与えている。

演奏される機会が少ないRV 588は、なるほどポリフォニックで実際の教会の典礼に適していそうだ。RV 589を聴きなれた耳には、そのパロディと思ってしまうようなメロディ(実際はその逆なのだが)が度々登場し、曲の進化の過程をみるようだ。

↓こちらがマイナーなRV 588。


Antonio Vivaldi: Gloria in D major RV588 -
I. introduzione (RV 639): Aria "Jubilate o amoeni cori"
II. Recitativo "In tan solemni pompa"
Sara Mingardo (contralto), Concerto Italiano, Rinaldo Alessandrini


さらに、RV 588のグローリアはヴィヴァルディと同時代の作曲家、ジョヴァンニ・マリア・ルッジェーリ(活動期間:1690頃–1720頃)の同名作品を下敷きにしている。インスピレーションを受けただけでなく、最終曲の「Cum Sancto Spiritu」などはルッジェーリ作品をそのまま引用するという大胆さ。彼が創作した素材がヴィヴァルディにどう取り込まれたのかをたどってみるのも面白い。


Antonio Vivaldi (G. M. Ruggieri): Gloria for 2 cori & 2 orchestras in D major (RV Anh. 23)
THE KING'S CONSORT / Robert King (director)

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by bonnjour | 2010-03-13 03:18 | 聴く&観る
ミキティがモーツアルトのレクイエムで
夫婦揃ってスポーツ音痴だが、さすがにオリンピック期間中はTVをつけたりしていた。先週、女子フィギュアスケート(ショートプログラム)をぼんやりと見ていたら、安藤美姫選手がモーツアルトのレクイエムのメロディに乗って演技を始めたのでびっくりした。しかも、出だしからいきなり「Lacrimosa dies illa」(涙の日)。今シーズンの安藤選手のショートプログラムはこの曲を使用しているのだということを、初めて知った。

オリンピックの映像は権利の関係で一般の動画サイトには掲載されていないようなので、昨年12月の全日本選手権での「レクイエム」を貼り付ける。



フィギュアスケートの演技に合わせて編曲するので仕方ないとはいえ、こんな風にぶった切られて、映画音楽風にシンセサイザーでグイグイやられてしまうと、なんだかモーツアルトが気の毒になる。

モーツアルトは、まさにこの「Lacrimosa dies illa」の、8小節目で力尽きてしまったと伝えられるが、自筆譜を見ると、本当に8小節目ではたと筆が止まっているのが痛々しい。(写真の下のカッコ内の数字は小節)

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(3) Lacrimosa
(4) dies illa
(5) qua resurget


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(6) ex favilla
(7) judicandus
(8) homo reus

*9 & 10小節目のソプラノ・パートのみの書き込みは、モーツアルトの友人だった作曲家ヨーゼフ・アイブラーによる補筆。アイブラーは結局補筆を断念してしまい、お鉢が回ってきた弟子のジュスマイヤーによる補筆版が現在、普及しているという次第。

ナクソス・ミュージック・ライブラリーで、久しぶりにこの曲を聴いてみた。有名曲だけあっていろいろなディスクが揃っているが、ウィーン少年合唱団によるものがあった(NMLのリンクはこちら)。ソリストはソプラノにマックス・エマニュエル・チェンチッチ、アルトにデレク・リー・レイギンという、カウンターテナー好きには興味をそそられる顔ぶれだ。こちらで試聴できる。変声後にもかかわらずソプラノ・パートを歌っているチェンチッチは、喉が詰まった感じでかなり無理して歌っている印象。カウンターテナーに転向してよかった。

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今まで聴いたモーツアルトのレクイエムで一番心に残っているものといえば、1992年に没後200年を記念し、東京・四谷のイグナチオ教会で行われた実際のミサの中で演奏されたものだ。宗教音楽は典礼で使われる実用音楽でもあるので、本来あるべき場所で演奏されるのがもっともふさわしいということもあるのだが、この時ミサを司式したイエズス会士で上智大教授のペトロ・ネメシェギ神父が、モーツアルトを深く愛する人だったという因縁もある。

ハンガリー出身のネメシェギ師は1956年(ハンガリー動乱の年だ)に来日し、40年近く日本で布教活動をした後、民主化された祖国のカトリック教会立て直しのため、1993年にハンガリーに戻られた。大変に魅力的な人物で、彼が講師を務める一般向けの信仰講座は参加者が殺到した。当時、妹がこの講座に出ていた縁で、ハンガリーに発つ前の送別会に私も行ったのだが、さながらファンクラブの集いみたいだった。

どうしておられるかと検索したら、なんとモーツアルトのレクイエムについて講演している(らしい)動画が出てきた。ハンガリー語なので、内容はまったくわからないが、昨年の録画のようだ。1923年の生まれだから86歳になっておられたはずだが、かくしゃくとしているので安心した。今でもたびたび訪日し、講演などをこなしておられるようだ。
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by bonnjour | 2010-03-04 05:45 | 聴く&観る
天と地の間に


サンドリーヌ・ピオーが昨年の秋にリリースしたヘンデルの宗教的&哲学的アリア集「Between Heaven and Earth(天と地の間に)を、遅ればせながら聴いた。1曲目の「Disserratevi, o porte d’Averno」(オラトリオ『復活』HWV47より)から、重力をまったく感じさせない、天まで舞い上るような声の超絶技巧にぶっ飛んでしまう。ものすごいテクニックではあるが、胃もたれしそうな押しつけがましいところがないのが彼女の不思議なところだ。アルバムの冒頭と最後にイタリア語のアリアを置き、それ以外は英語の作品をもってきた構成も面白い。フランス語話者特有の、少々舌足らずで奇妙な柔らかさを感じさせる英語のディクションも、英語を母語としない私のような者にとっては違和感どころか、かえって心地よく響く(フレンチ・マジックというやつね)。

没後250年の記念の年となった昨年はヘンデルの作品に再び光が当たった感があったが、彼がソプラノという声種に託した「神々しさ」や「天の声」といったイメージを表現するのに、ピオーのちょっと人間離れした清浄な声ほどふさわしいものはないだろう。

アルバムには1曲だけ二重唱(オラトリオ『快活の人、沈思の人、温和の人』HWV 55より”As steals the morn upon the night")が含まれており、そこにテノールのトピ・レティプーが参加している。これがまた、地上のものとも思えない美しさで、二人の声のケミストリー(相性)の妙を感じる。

Handel, Between Heaven and Earth

【アルバム曲目】
1. La Resurrezione | Aria ‘Disserratevi, o porte d’Averno’
2. Theodora | Recitative ‘O Thou bright Sun!’
3. Theodora | Aria ‘With darkness deep as is my woe'
4. A song for st cecilia’s day | Aria ‘What passion cannot Music raise and quell’
5. Messiah | Aria ‘Rejoice greatly’
6. Theodora | Largo
7. Alexander Balus | Aria ‘O take me from this hateful light’
8. Alexander Balus | Recitative ‘Forgive, O queen’
9. Alexander Balus | Accompagnato ‘Calm thou my soul
10. Alexander Balus | Aria ‘Convey me to some peaceful shore’
11. Joseph and his brethren | Recitative ‘Art thou not Zaphnath? Is not Egypt sav’d?’
12. Joseph and his brethren | Aria ‘Prophetic raptures swell my breast’
13. L’allegro, Il penseroso, ed Il moderato | Duet ‘As steals the morn upon the night’ *
14. Solomon | Symphony (‘The Arrival of the Queen of Sheba')
15. L’allegro, il penseroso, ed il moderato Accompagnato | ‘First and chief on golden wing’
16. L’allegro, il penseroso, ed il moderato Accompagnato | Aria ‘Sweet bird'
17. Concerto Grosso in B Flat Major, op.3 no.2 | Largo
18. Samson | Aria ‘Let the bright seraphims'
19. Il Trionfo del Tempo e del Disinganno | Accompagnato ‘Pure del cielo’
20. Il Trionfo del Tempo e del Disinganno | Aria ‘Tu del Ciel ministro eletto'


Sandrine Piau (soprano)
Accademia Bizantina + Stefano Montanari (premier violon et direction)

* with Topi Lehtipuu (tenor)
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by bonnjour | 2010-02-14 08:58 | 聴く&観る
バッハのクリスマス・オラトリオ
街は電飾やツリー、アーモンド菓子を売る屋台など、クリスマス色が一杯なのだが、季節用品はあらかた実家に預けたまま仮住まいの私たちのアパートは特別な飾り付けをしているわけでもなく、殺風景な感じ。せめて耳だけでもクリスマスの気分を味わおうと取りだしたのは、ハルモニア・ムンディから出ている、こちらのディスクだ。

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J.S.バッハ、クリスマス・オラトリオ
ルネ・ヤーコプス(指揮)
RIAS室内合唱団
ベルリン古楽アカデミー
ソリスト: ドロテア・レシュマン(S)
      アンドレアス・ショル(CT)
      ヴェルナー・ギュラ(T)
      クラウス・ヘーガー(Bs)

まずジャケットに惹かれる。趣味のよい絵を使ったハルモニア・ムンディ盤は、いわゆるジャケ買いの人も多いのでは? そしてヤーコプスの指揮のもとに集まったドイツ系の豪華ソリストの顔ぶれも魅力的だ。とりわけアルト・パートを歌っているショルは録音当時29歳と若いが、大変に安定した歌唱でその後の活躍もうなずける。ベルリン古楽アカデミーとRIAS室内合唱団による質実剛健な演奏をきいていると、ドイツのどこかの教会でクリスマス礼拝に参加しているような気持ちになってくる。

ただ、教会音楽は礼拝で使われるために書かれた実用品なので、演奏会で一気に聴くより、実際の典礼の最中に聴いたら感動もひとしおなのでは、とないものねだりの気持ちもわいてくる。この曲も、降誕節第1祝日(12月25日)から顕現節(1月6日)まで、6回の祝日用に書かれたもので(バッハによる初演では、ライプツィヒの聖ニコライと聖トーマスの2つの教会を行き来して演奏された)、それを演奏会で通して演奏すると3時間近くにもなる。

この作品の多くの部分は旧作のカンタータのメロディを流用し、歌詞を入れ替えた「パロディ」だが、それでいてひとつの独立した世界を構築しているのはさすがだ。第1部第5曲のコラール「Wie soll ich dich empfangen(いかにしてかわれは汝を迎えまつり)」と、第6部第64曲のコラール「Nun seid ihr wohl gerochen(いまや汝らの神の報復はいみじくも遂げられたり)」は、同じバッハの「マタイ受難曲」のコラール「O Haupt voll Blut und Wunden(血潮したたる主のみかしらよ)」と同じメロディ(下記楽譜)を使用しており、後に起こるイエスの受難を象徴しているという説もある。

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この旋律は、もとをただせばドイツの作曲家ハンス・レオ・ハスラー(1564-1612)の「Mein G'muth ist mir verwirret(わたしの心は千々に乱れ)」という恋愛歌から取られたものだ。人々に馴染んだ旋律が別の曲に転用された当時の習慣とはいえ、見事なリサイクルぶりに驚く。

クリスマス・オラトリオ全曲のスコアはこちらのIMSLP/Petrucci Music Libraryサイトでダウンロードできる。

ディスクのジャケットの絵は、ルネサンス期のヴェネツィア派の画家、ジョヴァンニ・ベッリーニ(c. 1430 – 1516)の「イエスの神殿奉納」(1460-64)。原画は80 cm x 105 cmのテンペラ画だが、ジャケットでは聖母マリアと幼子イエスの顔だけがトリミングされており、画面のひび割れも含めて原画のタッチが鮮明に出ているのも趣がある。

↓ こちらが原画。登場人物が一列に並ぶ構図は、舞台劇を見ているようだ。
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解説と対訳が英独仏の3ヶ国語で書かれたブックレットも充実している。美麗な絵画の写真多し。

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↓ ディスクの音源がYouTubeにあったので、貼り付けておく。降誕節第1日-第9曲:コラール「Ach, mein herzliebes Jesulein」(ああ、心から愛する幼子イエスさま)。



【追記】 パリ在住のCさんが、先週の土曜日にシャンゼリゼ劇場で行われたジャン・クリストフ・スピノジ指揮、アンサンブル・マテウスによる「クリスマス・オラトリオ」の演奏会に行ってらした。ソリストとして登場したナタリー・ドゥセが素晴らしかったとのこと。このディスクのようなドイツ色の強い演奏もいいけれど、パリで聴くフランス人演奏家主体のバッハも面白そうだ。
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by bonnjour | 2009-12-14 19:46 | 聴く&観る
王子様系テノールの前身は不気味系ロックバンドのヴォーカル


Topi Lehtipuu: ”Un'aura amorosa” (Così fan tutte/Mozart)
Glyndebourne Festival, 2006

バリトンやアルトなど低い声を偏愛し、テノールやソプラノにはあまり興味がない低声フェチの私だが、フィンランド出身のテノール、トピ・レティプー(Topi Lehtipuu)はちょっと気になる。Naïveレーベルから出たヴィヴァルディのオペラ「La Fida Ninfa」(J.Ch.スピノジ指揮)に彼が参加していて、ディスクを繰り返し聴いているうちに、そのリリックで端正なテノール声にひかれた。

ルター派の牧師である父親の赴任先オーストラリア(フィンランド移民のコミュニティがあるそうだ)で1971年に生まれた彼は学齢期になると母国に戻り、そこでフィンランドが世界に誇る充実した音楽教育を受けた。かの国では音楽の才能を見出された子供は、適切な専門家の指導が受けられるよう、人的ネットワークが発達しているのだそうだ。人材が最大の資源と心得ている国だけのことはある。

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オペラ歌手としてのデビューは、フィンランド国立歌劇場でブリテンの「アルバート・ヘリング」のタイトルロール。その後、ジャン=クロード・マルゴワールのオーディションを受けて、彼が指揮する「魔笛」のタミーノをパリのシャンゼリゼ劇場で歌い、注目された。甘くて若々しい声は、タミーノや「コジ・ファン・トゥッテ」のフェルランド(上のYouTube動画参照)など、王子様&貴公子系の役柄にぴったりだ。

もうひとつの活動の柱はバロック作品で、前述のヴィヴァルディの他にもモンテヴェルディ、ヘンデル、ラモーなどをレパートリーにしている。音楽マーケティング的には古楽系テノールということになるのかな。オペラやオラトリオもいいけれど、この人の歌う歌曲も聴いてみたいと思う。

そんな彼がオペラ歌手としてステージに立つ前にやっていたのが、HÖYRY-KONE(「蒸気機関」の意)という地元のチェンバー・ロック・バンドのヴォーカル兼ヴァイオリニストで、バンドは90年代にアルバムを2枚出し、とりわけ日本では結構売れた(本人談)とか。覚えている人、いますか?

そのアルバムが、YouTubeでも何曲か聴ける。下記は、2枚目のアルバム「Huono Parturi」より、Karhunkaato(熊の屠殺)という作品。



うーん、ヘビメタ風のギターと管弦楽にトピ青年の伸びやかな正統派テノールが組んずほぐれつして、ミスマッチというか、聴いていると頭がクラクラしそうな不気味な作品だ。でも、彼の歌のうまさは、当たり前だけどここでも光っている。
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by bonnjour | 2009-12-09 00:36 | 聴く&観る
「古代ローマ帝国の遺産」展
所用があって上野に行ったら、商店街の街灯に国立西洋美術館で開催されている「古代ローマ帝国の遺産」展の宣伝バナーがずらりと下がっていたので、急に思い立って展覧会を見て帰ることにした。美術館に入る前に駅前のチケットショップで値引きチケットを買うことは忘れなかった。当日券1,500円のところ、チケットショップでは1,300円。よく見ると無料の招待券なので、新聞販売店かなんかが配ったタダ券を転売した人がいるのかもしれない(ちなみに主催者には東京新聞が名をつらねている)。

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この企画は西洋美術館の開館50周年記念事業だそうだ(現在の館長である青柳正規氏が古代ローマの専門家であることと関係あるのかしらん)。帝国の首都ローマと、火山の噴火で滅びたポンペイの2つの都市に光を当て、帝国の誕生から最盛期までの歴史をたどるもので、彫像やフレスコ画などの美術品や工芸品、ポンペイから出土した当時の生活用品などが展示されている。どうやって運んだのか、ポンペイの大型フレスコはなかなかの迫力だ。精緻に描かれた植物は、2000年前のものとは思えない色香を漂わせている。

↓ ポンペイの「黄金の腕輪の家」から出土したフレスコ (200cm X 357cm)
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また、ポンペイの遺跡「黄金の腕輪の家」の往時の様子を再現したバーチャルリアリティの映像は、大型スクリーンに映し出されたこともあって、まるでその場にいるようだ。10数年前の8月の暑い日、一人でポンペイの遺跡を見にいったときのことを思い出した。

↓ こんな首飾りは、今でも高級宝飾店で扱っていそうだ。
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↓ 東大が2002年から発掘調査を行っているナポリ近郊のソンマ・ヴェスヴィアーナで発見された、豹を抱くディオニュソス像。白大理石で作られた見事な彫像だ。これを掘り当てたときの調査隊の興奮は、いかほどのものだったろう。
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こうした豪華な展示物のほかに、ローマ時代の水道に使われた部品が出品されていて、それがなぜか一番印象に残った。水を漉すフィルターや、水道弁などの実用品だが、水道設備を規格化して帝国の領土にインフラを行き渡らせた古代ローマ人は、ただものではなかった。

展覧会の後は向かい側の東京文化会館の資料室に寄り、モンテヴェルディの「Ohime ch'io cado」の楽譜をコピー。ここでは一定の条件下で楽譜を含む所蔵資料(視聴覚資料は対象外)の複写が許されており、コピー料金も1枚30円と手頃。コピー受付で係の人に作曲者の名前をきかれたのは、権利者の著作権が存続しているかどうかをチェックするためだと思うが、大丈夫、モンテヴェルディ先生は400年近く前にお亡くなりになっています。

この資料室は高校時代に結構よく通ったのだが、その後は足を踏み入れることがなかった。コンピューターによる検索システムが導入されるなど、近代化はなされているが、なぜかレトロな内部の雰囲気にしばしノスタルジーにひたったのである。

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by bonnjour | 2009-11-10 14:56 | 聴く&観る
生き生きとした即興性に彩られた夜 - ジャルスキー&ラルペッジャータ来日公演 (王子ホール)
ジャルスキー&ラルペッジャータの来日公演にまた行ってきた。会場は銀座・王子ホール。先週土曜日の東京芸術劇場(フジコ・ヘミングとのジョイントコンサート)、日曜日のサントリーホール・ブルーローズ(追加公演)と続けて聴いてきたが、自分にとっては今日が聴き納めだ。

ちなみに今夜は東京オペラシティでマルク・ミンコフスキがレ・ミュジシャン・ド・ルーブルを率いて来日公演(ラモー・プログラム)を行っており、そちらにもかなり魅かれたのだが、初心を貫いて(笑)ジャルスキーを選んだ。東京近辺のバロック音楽ファンの中には、ジャルスキーとミンコフスキを秤にかけて後者を選んだ人も多かったようだ。豪華な顔ぶれの来日公演が目白押しの東京だが、このように日程がバッティングするとなると良し悪しだ。

王子製紙がメセナ事業の一環として本社ビルに併設した王子ホール(1991年完成)は、客席数315席と小振りながら、親密なサロン的雰囲気を持つホール。古楽アンサンブルとカウンターテナーの演奏を聴くには最適の環境だ。

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演奏が始まり、あれっ?と思った。今まで2回の公演は、いずれもイタリア民謡歌手のルチッラ・ガレアッツィが力強く歌う「ああ、美しき人生」で幕を開けたのだが、今夜は器楽曲(カッツァーティ作曲のチャコーナ)で始まった。まさか、前回素晴らしい歌唱で聴衆を圧倒したガレアッツィが急病で降板?と心配になるうち、ジャルスキーが登場し、女性作曲家バルバラ・ストロッツィ作の「恋するエラクレイト」を歌いはじめる。これは「Udite, amanti (聞け、恋人たちよ)」で始まるドラマチックなラメント(嘆き歌)。私は今回、後ろの方の席に座っていたのだが、彼の声はシャープで張りがあり、後方にまでよく響く。そして時折り差し込む浮遊感が、聴く者を病みつきにする。

ジャルスキーが2曲歌った後は、カスタネットの激しいリズムが印象的なタランテラ(器楽曲)が演奏される。そしていよいよガレアッツィが「ああ、美しき人生」を歌いながらステージに登場した。地に足のついた存在感のある歌手だ。よかった、キャンセルじゃなかったんだ。後でロビーをよく見たら「曲順変更のお知らせ」という掲示があった。私はそれを見逃して早とちりしていたわけだ。

コンサート後にジャルスキーとプルハルが出席するサイン会が開かれたので、そこでお二人に曲順変更の理由をきいたところ、演奏効果を考えてのことという。冒頭で民謡歌手のガレアッツィを出してしまうと、最初から種明かしをすることになるので、「サプライズ」は少し後に登場させることにしたのだそうだ。また、前回の公演で演奏されたモンテヴェルディの「美しい乙女」および「安らかにみな忘れ」(「ポッペアの戴冠」より)は省略されて、かわりにルイジ・ロッシの「アヴェルヌスを離れよ」が入っていた。

このように、日を経るに従って演奏曲目の選択と順番が臨機応変に変化するのに加え、各曲のアレンジも日によって少しずつ異なっているのが興味深かった。即興演奏については言うまでもない。日本公演のプログラムに寄せた解説で、プルハルは次のように書いている。
「どんなバックグラウンドを持つミュージシャンにとっても、即興演奏とは、聴衆とコミュニケーションをとるための最も直接的な手段です。年齢や文化的背景にかかわらず、即興演奏はあらゆる音楽形式に勝ります」

その言葉を裏付けるように、この晩のコンサートは演奏者と聴衆が親密なホールの中で一体となり、生き生きとした即興性に彩られた音楽が次から次へと飛び出した。きっと、忘れられない夜になると思う。

↓ カーテンコールでのガレアッツィ(左)とジャルスキー。
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↓ カーテンコールを受ける出演者一同。いつまでも拍手が鳴りやまなかった。
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【演奏曲目】
器楽曲ジャルスキーのソロガレアッツィのソロで色分けした。最後の「ロマネスカによる子守唄」はジャルスキーとガレアッツィのデュエット。

・マウリツィオ・カッツァーティ:チャコーナ
 Maurizio Cazzati : Ciaccona

・バルバラ・ストロッツィ:「恋するエラクレイト」
 Barbara Strozzi : L’Eraclito Amoroso

・ジョヴァンニ・フェリーチェ・サンチェス:プレッソ  ロンデ トランクィッロ
 Giovanni Felipe Sances : Presso l’onde tranquillo


・即興演奏:タランテラ・ナポリターナ
 Improvisation : Tarantella Napoletana


・ルチッラ・ガレアッツィ:ああ、美しき人生
 Lucilla Galeazzi : A vita bella

・クラウディオ・モンテヴェルディ/即興演奏:ああ、私は倒れてしまう
 Claudio Monteverdi/Improvisation : Ohime, ch’io cado

・ジローラモ・カプスペルガー:アルペッジャータ
 Girolamo Kapsberger : Arpeggiata


・ルチッラ・ガレアッツィ:私の花の夢
 Lucilla Galeazzi : Sogna fiore mio

・即興演奏:タランテラ・イタリアーナ
 Improvisation : Tarantella Italiana

・G.A.パンドルフィ・メアッリ:ラ・ヴィンツィオリーナ
 G.A. Pandolfi Mealli : La Vinciolina


・クラウディオ・モンテヴェルディ:苦しみが甘美なものならば
 Claudio Monteverdi : Si dolce e’l tormento


・ドメニコ・マリア・メッリ:ディスピエガーテ・グアンチェ・アマンテ
 Domenico Maria Melii : Dispiegate, guancie amate

・即興演奏:ラ・ディア・スパニョーラ
 Imprivisation : La dia Spagnola

・ルイジ・ロッシ:アヴェルヌスを離れよ
 Luigi Rossi : Lasciate Averno


・マルコ・ウッチェリーニ:満足したルチミニア
 Marco Uccelini : La Luciminia contenta


・ルチッラ・ガレアッツィ/即興演奏:家が欲しいな
 Lucilla Galeazzi/improvisation : Voglio una casa


・トラディショナル/即興演奏:ロマネスカによる子守唄
 Traditionelle/Improvisation : Ninna, nanna sopra la Romanesca

【アンコール】

・ルチッラ・ガレアッツィ/即興演奏:家が欲しいな
 Lucilla Galeazzi/improvisation : Voglio una casa

・クラウディオ・モンテヴェルディ/即興演奏:ああ、私は倒れてしまう
 Claudio Monteverdi/Improvisation : Ohime, ch’io cado


・作者不詳:天国と地獄のシャコンヌ
 Ciaccona del Paradiso e dell'Inferno


・ルチッラ・ガレアッツィ:ああ、美しき人生
 Lucilla Galeazzi : A vita bella


・クラウディオ・モンテヴェルディ:苦しみが甘美なものならば(日本語歌詞による)
 Claudio Monteverdi : Si dolce e’l tormento


【耳寄り情報】
「音楽の友」9月号の「来日演奏家速報2010」に、ジャルスキーが来年9月に来日(予定)、というようなことが書いてあったのでサイン会でご本人に確認したところ、詳細は未定ながら、来年も日本公演を行う予定とのこと。しかも次回は自身が結成した「アンサンブル・アルタセルセ」を同伴する可能性が高いそうだ。今から楽しみだ。
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by bonnjour | 2009-11-05 05:39 | 聴く&観る
ジャルスキー&ラルペッジャータの来日公演 (サントリーホール)
前日に引き続き、ジャルスキー&ラルペッジャータの来日公演に行った。今日は彼らだけが出演するプログラムで、会場もサントリーホールの小ホール(384席)と適正規模なので安心してホールに向かう。このコンサートは追加公演で、チケットは公演直前に完売という情報だったが、当日券が30枚ほど出た。会場のキャパシティからいうと結構な数で、結果的に当日券は半分以上売れ残っていたようだ。

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【演奏曲目】
ルチッラ・ガレアッツィ:ああ、美しき人生
マウリツィオ・カッツァーティ:チャコーナ
バルバラ・ストロッツィ:「恋するエラクレイト」
ジョヴァンニ・フェリーチェ・サンチェス:プレッソ  ロンデ トランクィッロ
即興演奏:タランテラ・ナポリターナ
クラウディオ・モンテヴェルディ/即興演奏:ああ、私は倒れてしまう
アントニオ・ベルターリ:チャッコーナ
ジローラモ・カプスペルガー:アルペッジャータ
ルチッラ・ガレアッツィ:私の花の夢
即興演奏:タランテラ・イタリアーナ
G.A.パンドルフィ・メアッリ:ラ・ヴィンツィオリーナ
クラウディオ・モンテヴェルディ:苦しみが甘美なものならば
・クラウディオ・モンテヴェルディ:美しい乙女

マルコ・ウッチェリーニ:満足したルチミニア
ルイジ・ポッツィ/即興演奏:カンタータ ソプラ イル パッサカリオ ディアトニカ
クラウディオ・モンテヴェルディ:「安らかにみな忘れ」(歌劇「ポッペアの戴冠」より)
ドメニコ・マリア・メッリ:ディスピエガーテ・グアンチェ・アマンテ
ルチッラ・ガレアッツィ/即興演奏:家が欲しいな
トラディショナル/即興演奏:ロマネスカによる子守唄 (デュエット)

休憩を入れず全プログラムが通して演奏された。ジャルスキーと、イタリア民謡の女性ヴォーカリスト・ガレアッツィによる独唱と、ラルペッジャータによる器楽演奏を織り交ぜるプログラム構成は昨日と同様だが、曲目は今日のほうが多い。ためしに上記の曲目リストでは演奏者を色分けしてみたが、こうしてみると変化に富む構成であることがよくわかる。会場で手渡されたプログラムには載っていなかったモンテヴェルディの「Oblivion Soave (安らかにみな忘れ)」(歌劇「ポッペアの戴冠」より)が演奏されたのもラッキー。ポッペアの乳母が歌う、この子守唄は好きな曲だ。

ジャルスキーは絶好調で、艶のある高音は震えがくるほど美しかった。また、彼の特質であるデリケートなピアニシモを味わえる、こじんまりしたホールであることもよかった。野太い声のガレアッツィが歌う土俗的なイタリア民謡と、透明感のあるジャルスキーの初期バロック曲の取り合わせが、違和感を感じるどころか、不思議とマッチしていたのは考え抜かれたプログラム構成のおかげだろう。ラルペッジャータの器楽奏者たちも名手揃いで、丁々発止の即興演奏に引き込まれた。

長らく一緒にコンサートツアーを続けているジャルスキーとラルペッジャータは、ファミリーのようなものなのだろう。互いの信頼感に裏付けられたアンサンブルの妙味を味わえる、素晴らしいコンサートだった。大喝采を浴びても出しゃばらず、いつも共演者に花を持たせようとするジャルスキーのステージマナーも、大変に好感のもてるものだ。

この晩はアンコールも大サービスで、それぞれに楽しい趣向がこらされた曲が5つ演奏された。

【アンコール】
・ガレアッツィ:「家が欲しいな」(観客参加型)
・モンテヴェルディ:「ああ、私は倒れてしまう」(ジャズか?)
・作者不詳:「天国と地獄のシャコンヌ」(下記動画をご参照)
・ガレアッツィ:「ああ、美しき人生」(ガレアッツィとジャルスキーが歌合戦状態に...)
・モンテヴェルディ:「苦しみが甘美なものならば」(日本語歌詞による)

アンコール最後の「苦しみが甘美なものならば」については、ネタばれになるので11月10日の最終公演(大阪)が終わるまではどこが「special version」だったのか書かないでおくが、この曲を歌って喝采を受けたジャルスキーが、ラルペッジャータのメンバーで鍵盤奏者の北御門はるさんの方を向いて拍手を贈る仕草を見せた、というのをヒントにしておく(といっても、いろいろな人がネタばれしているみたいだが)。

【追記】 アンコールで歌った「苦しみが甘美なものならば」special versionの種明かし。なんとジャルスキーはこのイタリア語の歌を日本語で歌ってくれたのである。11月5日の王子ホールでの同内容のコンサート終了後に北御門さんに伺ったところ、すでに日本語に訳された歌詞があり、北御門さんがその歌詞に音符を割り振ってジャルスキーが歌えるようにしたそうだ。イタリア語と日本語の構造の違いを考えると大変な作業だったと思うが、その甲斐あって旋律の美しさはそのままに、イタリア語版とは一味違った親しみやすい歌になっていた。

↓ 昨年9月のアンブロネー音楽祭で演奏されたジャルスキー&ラルペッジャータの「天国と地獄のシャコンヌ」。ヴァイオリンのタンピエリとコルネットのシャーウィンが突然歌手に変身。それを迎え撃つジャルスキー。3人とも、なかなかの役者だ。


↓ そしてアンコールでの「ああ、美しき人生」の、ガレアッツィとジャルスキーの掛け合いは、こんな感じ。(前の週にパリで開かれた「ジャルスキーのデビュー10周年記念コンサート」でのジャルスキーとゲストのガレアッツィ)


前日のジョイントコンサートではやらなかったサイン会も、この夜は開催され、ジャルスキーとプルハルの両氏が並んでサインに応じてくれた。9月にヴィシーのオペラハウスでジャルスキーと言葉を交わしたとき、秋の東京公演に行くと言っておいたのを覚えていてくれて「昨日もいらしてましたね。この辺(と、手で位置を示す)の客席に座っていたでしょう?」と言われたので、嬉しくもあり、赤面ものでもあり。相好を崩してステージを凝視する姿を見られてしまったか...。

前日の、やりにくそうなただっ広い会場や、我が道を行くタイプのピアノ伴奏者のことが頭にあって、「昨日もよかったけれど、今日はもっと幸せそうにみえましたよ」とうっかり口をすべらせたら、ジャルスキーは隣に座っているプルハルさんと顔を見合せて微笑んだ。おっと失言!と思って「いや、昨日も幸せそうでしたけど...」と取り繕ってみたけれど。

時間管理に厳しい主催者は、サイン会が長引かないよう気をもんでいる様子だったが、ファン一人一人に時間をかけて接してくれる二人のアーチストは終始にこやかで、ファンの感想を聞いたり質問に答えたりしてくれていた。プルハルのサインは笑顔のマンガ入り。物静かで神秘的な雰囲気にもかかわらず、意外とお茶目な人なのかも。

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【出演】
フィリップ・ジャルスキー Philippe Jaroussky:カウンターテナー
クリスティーナ・プルハル Christina Pluhar:指揮&テオルボ
ルチッラ・ガレアッツィ Lucilla Galeazzi:ヴォーカル
エーロ・パルヴィアイネン Eero Palviainen:リュート、バロックギター
マルギット・ウベルアッケル Margit Übellacker:プサルタリー
アレッサンドロ・タンピエリ Alessandro Tampieri:バロックヴァイオリン
ドロン・シャーウィン Doron Sherwin:コルネット
ミシェル・クロード Michèle Claude:打楽器
北御門はる Haru Kitamika:チェンバロ

【追加情報】 この公演で超絶技巧のバロックヴァイオリンを弾きまくって鮮烈な印象を残したアレッサンドロ・タンピエリは、12月に予定されているヴァイオリニスト&指揮者のエンリコ・オノフリの来日公演にもコンサートマスターとして参加する。公演は12月9日(水)および10日(木)、東京・紀尾井ホールにて。詳細はエンリコ・オノフリの日本語公式サイトをご参照。
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by bonnjour | 2009-11-01 03:58 | 聴く&観る