B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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3つのプティット・マドレーヌ
先日、フランスのラジオ局「Radio Classique」がフィリップ・ジャルスキーのインタビュー特集番組を流し、その中で彼の思い出の曲を3つ紹介していた。Webサイトの番組紹介には「
les 3 “madeleines”」とあったので、初め見たときは何のこっちゃと思ったのだが、番組のトークを聴いたら、やっと意味が分かった。(番組の再放送はこちらのサイトでまだ聞ける。2月20日18:30~20:00放送のL'invité classiqueという番組をクリック)。

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プルーストの「失われた時を求めて」に出てくる、「主人公がマドレーヌ菓子を紅茶に浸して口に入れたとたん、昔の思い出が鮮やかに甦る」という有名なエピソードに引っかけていたのだ。プルーストの「プティット・マドレーヌ」のように、ありありと昔を思い出させてくれる因縁の曲、というわけだ。ちなみにジャルスキーが挙げていたのは、パガニーニ「24の奇想曲」(演奏:イツァーク・パールマン)、ショスタコビッチ「交響曲第10番」(指揮:カラヤン)、クープラン「ルソン・ド・テネブレ」(演奏:ジェラール・レーヌ)の3曲。詳細はこちらを参照。 

というわけで、自分の「3つのプティット・マドレーヌ」も選んでみた。

【その1】
ジェイムズ・ボウマンが歌う、ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデ(1170頃~1230頃。下の絵の吟遊詩人)作の「Palästinalied(パレスチナの歌)」。十字軍に加わってパレスチナに赴いた詩人が聖地を実際に見た感動を歌ったものだ。デイヴィッド・マンロウの名盤「十字軍の音楽」に収録されている。このディスクのことは以前のエントリーに書いたが、これが15、6歳頃、初めて聴いたカウンターテナーの声だ。性別不詳の変わった声だけど、こういうの好きだ!と思ったのが第一印象だった。しかし当時は、カウンターテナーは古楽専門の特別な声という印象で、今のようにスター性のある若い世代のカウンターテナー歌手たちが色々なレパートリーに挑戦する時代が来るとは思ってもみなかった。

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【その2】
ご存じ、有名すぎるほど有名なグレン・グールドのバッハ「ゴルトベルク変奏曲」(1955年録音版)。高校時代、クラシックおたくの道に入るきっかけとなったディスクだ。そのスリリングな演奏に一度で夢中になった。あまり聴きこんだせいで、他のピアニストの演奏を聴いても「あ、ここで唸り声(歌声?)が入るはず」と反応してしまうのは困ったけれど。入れ込むあまり、楽譜を買って家で「グールドごっこ」を試みたものの、なんとか弾けたのは冒頭の主題のアリア(これは技術的には平易な曲)のみ、というトホホな思い出もある。30の変奏曲を経て最初のアリアが再登場し全曲を締めくくるという輪のような構成になっているが、この曲で衝撃のデビューをしたグールドが、同じ曲の新録音をした翌年に、まるでこの曲の構成をなぞるかのように50歳の若さで亡くなってしまったのには皮肉な因縁を感じた。



【その3】
サン=サーンスのオペラ「サムソンとダリラ」から、ダリラのアリア「Mon coeur s'ouvre a ta voix(あなたの声に心は開く)」。とろけそうな誘惑の歌。旋律はもちろんのこと、フランス語の響きの美しさに惹かれて、家の近所のフランス語教室に駆け込んだ。フランス語はそれまでまったく知らなかったが、発音の仕方を習って、このアリアを真似して歌えるようになればいいなと思ったのだ。それ以来、言葉がちっとも上達していないのは大問題だが、ともあれこの曲がフランス語に興味を持つきっかけになったことだけは確かだ。有名な曲なので色々な歌手が録音を出しているが、私が一番ぐっとくるのはやっぱりマリア・カラス。ソプラノながら深みと暗さをもった彼女の声は、メゾソプラノのために書かれたこの曲にぴったりとくる。



...とはいえ、こちらのクラウス・ノミ版のCDも愛蔵しているのだけれど。


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by bonnjour | 2009-03-08 07:35 | 聴く&観る
宮廷風の愛の歌
と気取ったタイトルを付けたが、中世フランスの作曲家&詩人、ギョーム・ド・マショー(1300頃~1377)が作った「Douce Dame Jolie(甘き淑女よ)」というシャンソンのこと。歌詞はヴィルレー(virelai)という、中世ヨーロッパで流行した定型詩のパターンに基づいている。美しい淑女に恋い焦がれる求愛者が彼女への忠誠を誓いつつ、つれない態度に傷つけられた心の痛みを訴えるという、宮廷風の愛の歌だ。現代語とはだいぶ音の感じの違う古いフランス語の歌詞が、特徴的な脚韻を踏みながら簡潔かつ典雅な旋律に乗って流れるのを聴いていると、実に癒される。

マショーは中世ヨーロッパの作曲家の中でも傑出した存在で、「Messe de Nostre Dame (ノートルダム・ミサ)」という大変に有名な宗教作品も作ったが、宮廷を舞台にした世俗歌曲をより多く残している。だが、本職はお坊さんで収入の多くは教会からの俸給に頼っていたという。貴族の次男坊以下は食べていくために聖職者になる者が多かったから、不思議はないのかもしれないが、恋の歌ばかり作っている坊さんというのは、いかにも聖と俗が混ざり合っていた中世らしい。

↓ Orlando Consortによる無伴奏の独唱が美しい。



【歌詞】
Douce dame jolie,
Pour dieu ne pensés mie
Que nulle ait signorie
Seur moy fors vous seulement.

Qu'adès sans tricherie
Chierie
Vous ay et humblement
Tous les jours de ma vie
Servie
Sans villain pensement.
Helas! et je mendie
D'esperance et d'aïe;
Dont ma joie est fenie,
Se pité ne vous en prent.

Douce dame jolie...(繰り返し)

Mais vo douce maistrie
Maistrie
Mon cuer si durement
Qu'elle le contralie
Et lie
En amour tellement
Qu'il n'a de riens envie
Fors d'estre en vo baillie;
Et se ne li ottrie
Vos cuers nul aligement.

Douce dame jolie...(繰り返し)

Et quant ma maladie
Garie
Ne sera nullement
Sans vous, douce anemie,
Qui lie
Estes de mon tourment,
A jointes mains deprie
Vo cuer, puis qu'il m'oublie,
Que temprement m'ocie,
Car trop langui longuement.

Douce dame jolie...(繰り返し)


歌詞英訳はこちらで。

さて、ドイツの「中世ロック」(というジャンルがあるんだそうな)のグループSchelmishが歌う、ロック版(というかラップ版?)のDouce Dame Jolieはこちら ↓ 。


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by bonnjour | 2009-03-04 12:01 | 聴く&観る
偶然、この声に遭遇した


フランス語の詩の朗読音声を探していて偶然、この声に遭遇した。ポール・ヴェルレーヌの「Le ciel est, par-dessus le toit...(空は屋根のかなたに)」を朗読している。ヴェルレーヌが同性愛の恋人アルチュール・ランボーに対する傷害事件(ピストルをぶっ放したのだ)で投獄された経験から生まれた作品だ。ベルベットで頬を撫でられているような、囁くような小声が私の声の好みのツボにはまってしまい、同じ音源をインターネットで配信しているサイトからダウンロードした。このサイトLitterature audio.com はフランス語による朗読の音声を無料で配信するポータルで、詩や小説、随筆、哲学、戯曲など色々なジャンルのコンテンツが提供されている。

声の主、オーギュスタン・ブリュノー氏の朗読はこちらのページに集められている。このサイトで色々な朗読者の声を聞いたが、声の質や雰囲気という点ではオーギュスタン青年がピカ一である(私の独断だけど)。何本かの朗読をこのサイトからダウンロードして、iPodで聞いている。

我が相棒もフランス語話者だが、強烈な南仏訛りのせいで、同じ詩を朗読してもらっても、残念ながらこんな風にはならない。南仏訛りは素朴で力強いが、洗練からはほど遠い。下記の訳詞の1行目を例に取れば、「空(すら)は屋ン根のかなだに、かぐも静(すずか)に、かぐも青すぃ」という調子。フランス語の地方訛りの中でも、南仏訛りは日本のズーズー弁みたいな位置付けらしい。

Le ciel est, par-dessus le toit...

    - Paul VERLAINE, Sagesse (1881)

Le ciel est, par-dessus le toit,
Si bleu, si calme !
Un arbre, par-dessus le toit,
Berce sa palme.

La cloche, dans le ciel qu'on voit,
Doucement tinte.
Un oiseau sur l'arbre qu'on voit
Chante sa plainte.

Mon Dieu, mon Dieu, la vie est là,
Simple et tranquille.
Cette paisible rumeur-là
Vient de la ville.

--Qu'as-tu fait, ô toi que voilà
Pleurant sans cesse,
Dis, qu'as-tu fait, toi que voilà,
De ta jeunesse ?


【日本語訳】

  偶 成  ポオル・ヴヱルレエン
(永井荷風 訳著「珊瑚集」 より)

空は屋根のかなたに
  かくも静にかくも青し。
樹は屋根のかなたに
  青き葉をゆする。

打仰ぐ空高く御寺の鐘は
  やはらかに鳴る。
打仰ぐ樹の上に鳥は
  かなしく歌ふ。

あゝ神よ。質朴なる人生は
  かしこなりけり。
かの平和なる物のひゞきは
  街より来る。

君、過ぎし日に何をかなせし。
  君今こゝに唯だ嘆く、
語れや、君、そもわかき折
  なにをかなせし。


ちなみにこの詩が音楽に乗ると、こんな感じ ↓ になる。ビデオ・クリップの1:46~4:30あたりが該当箇所。これはレイナルド・アーンの作曲によるものだが、同じ詩に基づいてガブリエル・フォーレも曲を書いており、フォーレ版のほうがよく演奏されているかもしれない。

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by bonnjour | 2009-03-02 11:39 | 聴く&観る