B的日常
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ドイツ、デンマーク、フランス(一瞬)と、流浪の生活を約10年。昨年秋にポーランドに流れ着く。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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ストックホルム1.5泊の旅日記 1日目Part2 パーセルの夜は更けて
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公式写真より

フィリップ・ジャルスキーと彼が結成した古楽演奏団体「アンサンブル・アルタセルセ」による、ヘンリー・パーセル(1659?-1695)作品のみのプログラム。今年のストックホルム古楽フェスティバルは、このコンサートで幕を開けた。

器楽合奏によるヘ長調のソナタ(Z793)に引き続き、ステージ前方に進み出たジャルスキーが歌い出したのは「Tis Nature's voice」(「聖セシリアの日のためのオード」より)だ。クリーミーでいて透明な声が、北国の古い教会の堂内に立ち昇り、ふんわりと消えていく。今日、この場にいられる幸せを心から感じた一夜だった。

Stockholm Early Musice Festival
June 9, 2010
"A Purcell Night"

Philippe Jaroussky, contre-ténor
Ensemble Artaserse:
Luis Beduschi, flûte
Margret Görner, flûte
Alessandro Tampieri, violon 1
Raul Orellana, violon 2
Christine Plubeau, viole
Richard Myron, basse de viole
Claire Antonini, théorbe
Yoko Nakamura, orgue et clavecin

【プログラム】
Sonata in F major (Z793)
'Tis nature's voice
Strike the viol
Viol solo after "Crown the altar"
Not all my torments
O solitude
Sonata in G minor (Z806)
Wondrous machine
Sweeter than roses
All the night

=== Intermission ===

Sonata in B minor (Z802)
An evening Hymn
Lovely Albina
Chaconne for solo flute in G minor (Z730)
Bid the virtues
Music for a while
Sonata for violin in D major (Z801)
O let me weep
See even night

=== Encore ===
If love's a sweet passion








コンサートが終わり、帰り支度をしていたら出口のところに何やらスウェーデン語の掲示が出ていた。英語と乏しいデンマーク語の知識から類推すると「コンサート後にジャルスキー氏がどこそこでサイン会やります。どなた様も参加歓迎」と書いてあるようなので、これ幸いと会場である教会敷地内の別棟に向かった。スウェーデン人はシャイで無口なのか、サイン会はお通夜みたいな静けさで始まったのだが、2、3人にサインした後でジャルスキーが「うーん、今日はすごく静かだね!」と言ったので一同は爆笑。そこから空気が和んだ。

2週間前のマドリッドに続き、今度はストックホルムにやってきた私を見つけて彼は「えっ、どうしてあなたがここに!!」と驚いた様子だったので、自分はデンマークに住んでいるからストックホルムは近場で、初のパーセル・プログラムをどうしても聴きたくて飛んできたと説明した。歌詞のひとつひとつが、とても心に響いたと感想を言ったら、顔をぱっと輝かせて「ありがとう!」。

1週間ほど前まで「ポッペアの戴冠」の公演に没頭していたので、その直後にパーセル・プログラムを開始するのは頭の切り替えが大変だったとのこと。年末にヨーロッパ各地で予定されているアンドレアス・ショルとのジョイント・コンサートでもパーセルを集中的に取り上げるので、今はパーセル作品に熱中しているそうだ。ゆくゆく、5~7年後くらいにはディスクを出せるといいなと言っていた。

コロラチューラの技巧を聴かせるヴィヴァルディやヘンデルのアリアが本領だと思われがちな彼だが、本当はパーセル作品のような内的世界を表現する音楽(昨年ディスクを出したフランス歌曲も、その系統である)を志向していることが、言動の端々からうかがえる。音楽マーケティングの観点で要求されるレパートリーと、自らが目指す芸術性の間で、なんとか上手にバランスを取ろうとしている姿が感じられた。


地元TV局による音楽祭のレポート。

↓ 開場の前。ドイツ教会の門の前には長蛇の列ができた。というのも会場が教会という構造上、座席は2つのカテゴリー内で自由席となっていたからだ。並んでいる聴衆に音楽祭スタッフがプラスチック・カップに入ったサイダーを配ってくれたのは嬉しい心配り。

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↓ 幕間にステージ近くまで行って美しい楽器をしばし眺めた。

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↓ コンサート終了後。夜の11時半過ぎだが、空はうっすらと明るい。

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↓ こういう夜は、まっすぐ帰宅したくない。ホテルのすぐ近くのカフェでワインをひっかけて帰った。

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by bonnjour | 2010-06-09 20:16 | 旅する
ストックホルム1.5泊の旅日記 1日目Part1 市内観光は寝不足により途中で挫折
ストックホルム市内に朝9時に到着し、旧市街のホテルに荷物を置いてそのまま市内観光するも、中途半端な夜行列車でほとんど寝ていないので睡魔に襲われて途中で断念。==>ホテルで爆睡。==>その晩。音響が抜群だった「ドイツ教会」での「パーセルの夕べ」。ジャルスキーのパーセル・プログラムは新しいレパートリーで、今夜が世界初のお披露目なのだそう。自ら結成した「アンサンブル・アルタセルセ」(ヴァイオリンには昨年のラルペッジャータの来日公演で超絶技巧をきかせてくれたアレッサンドロ・タンピエーリが参加)と息の合った、素晴らしい演奏だった(コンサートについてはPart2にて)。

↓ ストックホルムは「北欧のヴェネチア」なんだそうで、14の小島から構成される複雑な地形となっている。水辺の風景は心が安らぐ(でも冬場は寒そうだ)。

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↓ スウェーデン王室の次期王位継承者は、国王カール16世グスタフとドイツ出身のシルヴィア王妃との間に生まれた1男2女の長子であるヴィクトリア王女だが、王女は6月19日に長年の交際相手であるダニエル・ベストリング氏(トレーニング・ジム経営)と結婚する。ということで、街の中は祝賀ムードいっぱい。商店では二人の肖像の入ったグッズが売られている。

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↓ 王宮の前を通りかかったら幸運にも衛兵交代式をやっていたので、しばし見学した。実は「衛兵交代式」というものを生まれて初めて見た。

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↓ 旧市街にあるノーベル博物館を見学する。アルフレッド・ノーベルの生涯や歴代のノーベル賞受賞者の功績についての展示。1フロアだけの小規模な博物館だが、同じ建物の2階にはノーベル文学賞を選考・授与しているスウェーデン・アカデミーが入っている。併設のカフェでは「かつてノーベル賞授賞式の晩餐会で供していたのと同じレシピのアイスクリーム・パフェ」というのを出しているが、あやかっても仕方ないので食べなかった。英語のガイドツアーをやっていたので参加したが、途中で睡魔に襲われ(立った状態で眠りそうになるのは久しぶりの経験)、その後の観光を断念した。

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↓ ホテルに戻る前に本日のコンサート会場である「ドイツ教会」を下見に行く。教会の近くの道には音楽祭の横断幕が掲げられていてお祭り気分が盛り上がる。

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↓ 奥に見える鐘楼のある建物が、17世紀にハンザ同盟のドイツ人商人が資金を出し合って建立したドイツ教会(Tyska kyrkan)。ストックホルムはハンザ同盟都市との交易で栄えた歴史をもつ。狭い路地の先に、あまりに高い鐘楼を持つこの教会が建っているものだから、地上から全容の写真を撮ることはできない。でも遠くから鐘楼だけが突出して見えるのも、なかなかいいものだ。

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↓ 教会の隣(手前の建物)には音楽祭のチケットセンターが設けられている。用があって窓口に並んでいたら関係者の男性が「奥に椅子があるから、そこに座って待っていたら?」と声をかけてくれた。あとで音楽祭のプログラムを眺めていたら、その男性は音楽祭の芸術監督で作曲家/指揮者のペーター・ポントヴィク氏(Part2記事のYouTube動画ご参照)であることに気付いた。

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↓ チケットセンターの壁に貼られていた音楽祭の歴代のポスター。2004年にはショル兄が登場(左下のポスター)。

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↓ ここが教会の入り口。

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↓ 重厚で豪華な教会の内部。

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↓ コンサートに備えてハープシコードを調律中だった。

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↓ 旧市街にて、本屋のショウウインドウ。そういえば昔はスウェーデンといえば「フリーセックス。うひひ...」という脊髄反射があったなあ(古い?)。

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↓ これも旧市街の、有機食材を使ったパン屋さん。実はスウェーデン在住の友人に、「スウェーデンのパン屋の流れを変える10軒!」に選ばれたパン屋さんや、絶品のレバノン惣菜屋さん(<==スウェーデンは移民が多いのでエスニック料理が充実)の場所を事前に教えてもらったのだが、睡魔に襲われて心の中は「ホテル...ベッド...爆睡...」で一杯となり、たどり着けなかった。残念。

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↓ コンサート会場から近いことを条件に選んだホテルは、ドイツ教会から徒歩3分ほどのこじんまりした可愛い宿。17世紀の建物だそうで、そこかしこに置かれたアンチック家具は婦女子が喜びそうだ(はい、喜びました)。しかし3つ星でシングル1泊約180ユーロ(円高が進んだ現在でさえ約2万円)という料金設定は、やっぱり物価高の北欧ならではだ。

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↓ そしてこの部屋でコンサートの時間まで爆睡したのであった。

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by bonnjour | 2010-06-09 10:30 | 旅する
ストックホルム1.5泊の旅日記 0日目 突然思い立ち
モンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」を見にいったマドリッド旅行から自宅に戻ると、ネットでオーダーしていたイギリスの音楽雑誌「Early Music Today」が届いていた。そいつをパラパラめくっていたら、こんな広告が目に入った。

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ストックホルム古楽フェスティバル。6月9日のオープニングはフィリップ・ジャルスキー&アンサンブル・アルタセルセによる「パーセルの夕べ」だって。デンマークにいるのもあと3カ月となり、やり残したことは色々あるが、そういえば近場のスウェーデンには3時間ほどしか滞在したことがない(3時間とは、コペンハーゲンの対岸のスウェーデン南部の都市、マルメに友人を訪ねていった小旅行)。これは何かの啓示に違いないと勝手に自分に言い聞かせ、コンサートのチケットとストックホルムまでのフライトを電光石火で手配してしまった。

フライトが朝7時コペンハーゲン発なので、前夜火曜日の23時に最寄駅からコペンハーゲン行き特急に乗り、空港駅に着いたのは水曜の午前3時半(それにしても変なダイヤを組むものだ。この列車、空港に行く人で結構混んでいた)。同じように早朝のフライトを待つ人たちにまじり、空港のベンチで夜が明けるのを待つ。朝6時に開く空港ラウンジでコーヒーとペストリーをそそくさと頂いたあと(このラウンジで早朝から酒をあおってる人がいて驚いた。さすがの酒豪の私もこの時間帯は酒を見るのもいやだ)、ストックホルム行きの飛行機に乗り込む。
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by bonnjour | 2010-06-08 08:58 | 旅する
無くしてしまった。どうしよう。
ちょくちょく訪問させていただいているロンドン在住dognorahさんのブログの最新記事にロイヤル・オペラハウスで6月4日に上演された「フィガロの結婚」のレポが載っているが、それを読んでバルバリーナ(ソプラノ)が第4幕の冒頭で歌うカヴァティーナ「L'ho perduta, me meschina(無くしてしまった。どうしよう)」を思い出した。

スザンナからの手紙(実は好色なアルマヴィーヴァ伯爵をこらしめるために仕組まれた策略)の封を止めるのに使われていたピンを本人に返すよう伯爵に言われた少女バルバリーナは暗闇の中でピンをなくし、途方に暮れる。そんな彼女が取り乱して歌うのが、このカヴァティーナだ。「フィガロ」の中で唯一、最初から最後まで短調(へ短調)で書かれている曲で、わずか36小節と短いながら他のアリアとは異質な、印象に強く残る歌だ。

L'ho perduta... me meschina...
ah, chi sa dove sarà?
Non la trovo... E mia cugina...
e il padron ... cosa dirà?

無くしてしまったの。
どうしよう、一体どこにいっちゃんたんだろう。
ああ、見つからないわ。
従姉(スザンナ)は、そしてお殿様(伯爵)は
なんて言うかしら。


ある研究によれば、ピンで封印されたスザンナの手紙は彼女の処女性の象徴であり、伯爵との密会を承諾する手紙(それはスザンナと伯爵夫人が仕掛けた罠なのだが)の開封は、すなわち彼女の処女を奪うことを意味する。伯爵は手紙を開ける際にピンで指を刺す。処女のスザンナでなく、それを奪おうとたくらむ伯爵が「出血」してしまう皮肉。そして封印のピンを無くすことはスザンナの処女喪失を象徴するとともに、伯爵の愛を受け入れるならなんでも望むものを与えてやろうと誘惑されているバルバリーナ自身の処女性の危機をも意味しているという。(Zemach, Eddy and Tamara Balter. "The Structure of Irony and How it Functions in Music." Philosophers on Music: Experience, Meaning, and Work. Ed. Kathleen Stock. Oxford and New York: Oxford University Press, 2007. 189-90. Print.)

このオペラは領主の初夜権をめぐる伯爵と庶民カップル(フィガロとスザンナ)の攻防戦がテーマになっていることを考えると、なるほどとうなずける。たかがありふれたピンをなくしただけでバルバリーナがそこまで取り乱す理由がハッキリするというものだ。

古楽界の実力派アイドル、ヌリア・リアル嬢 (´Д`;)ハァハァ の歌唱で聴いてみよう。清純でいてしっかりと成熟した声が素晴らしい。



Le Nozze di Figaro (Mozart):"L'ho perduta" (Barbarina)
Nuria Rial (S)
Rene Jacobs (Con) & Concerto Köln


この歌を私が最初に聴いたのはオペラでなく、イタリアのタヴィアーニ兄弟の映画「Kaos(邦題:カオス・シチリア物語)」(1984年)だった。これはイタリアの大作家ルイジ・ピランデッロの、シチリアの土俗的な香りがする小説をもとにしたオムニバス映画で、最終章に作家自身が登場し(演じるのは、禿げ頭フェチの私としてはたまらないイタリアの名優オメロ・アントヌッティ)、久しぶりに訪れた生家で亡き母の霊と対話する。その母が少女時代を回想するシーンに非常に印象的に使われていたのがこの歌だ。



母の亡霊は、功成り遂げたものの人生に疲れた息子に「もはや見られなくなった者の眼でものを見るようにしなさい。そのほうが辛いけれど、物事がずっと美しく、尊いものに思えてくるのよ」と諭し、子供時代の思い出を話しはじめる。

少女だった母は、亡命したその父を追って家族でシチリアからマルタ島へ逃避行する途中、ある島で小休止した。子供たちは真っ白い砂と軽石でできた山から、真下にある紺碧の海めがけて駆け下りていく。そこでバルバリーナの歌が流れる。辛い亡命の旅の中でも子供たちは楽しみを見つけ、目の前には希望にあふれた未来を象徴するような大海が広がっている。

日本でこの映画が公開された当時(1985年)、子供たちが白い砂山をぴょんぴょん駆け下りるシーンがバルバリーナのカヴァティーナとともに予告編に使われて盛んに流されたので、私のように映画を通じてこの歌を知った人も多いのではないか。亡き母親の少女時代の回想に「無くしてしまったの」という歌が流れるのは、まことに興味深い。イタリア映画だから、本国の観客は「L'ho perduta... me meschina...」というイタリア語の歌詞をダイレクトに理解したはずだ。

↓ 心の中の亡き母(左)と対話するピランデッロ役のアントヌッティ様。なにはともあれ彼の禿げ頭に萌える。
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さて、この曲をヌリアちゃんのように歌ってみたい人には、こちらで提供されている楽譜と伴奏カラオケ(とてもチープな打ち込みだけど)が便利だ。楽譜の表示およびカラオケの演奏には、はじめにSibelius Scorchという無料のブラウザ・プラグインをインストールする必要がある。新モーツァルト全集オンライン版のスコア(著作権法上の「公正利用」原則に基づく個人利用目的に限定してDLが可能)はこちらから。
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by bonnjour | 2010-06-07 23:34 | 聴く&観る
一番美しい季節
6月は当地が一番美しい季節。日は果てしなく長く、寒からず暑からず、太陽いっぱいの日が続く。

リラの花が満開。多くの家で庭にリラを植えているので、通りすがりに楽しませてもらっている。
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近所の公園。
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公園の池では、なんだか作りものくさい鳥が遊んでいる。
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ワールドカップを前に金曜日は中心街で「サッカー祭り」をやっていた。ワールドカップがもうすぐだということにやっと気付いたスポーツ音痴の私たち。
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アスパラガスをたくさん買ったので海老とマッシュルームのリゾットに入れてみた。近所のスーパーでリゾット用のイタリア米が、物価高のデンマークにしては大変良心的な値段で売られているのは助かる。
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by bonnjour | 2010-06-06 05:03 | 暮らす
サヴァールの「Orient - Occident (1200-1700)」
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先週のマドリッド旅行で訪れたトレドの街は、中世にキリスト教、ユダヤ教、イスラム教の各文化が交差した土地で、科学、哲学、神学などの文献がアラビア語からラテン語に訳され、その後のヨーロッパの文化と思想に大きな貢献をした。イスラムとキリスト教の建築様式の融合であるムデハル様式の建物を見上げながら、私は東と西が出会った中世に思いを馳せた。

と、恰好つけた前置きはこれくらいにして、スペインはカタルーニャ地方出身のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者&指揮者ジョルディ・サヴァールがアフガニスタン、イスラエル、モロッコ、ギリシャの民族楽器奏者を迎えて制作したディスク「Orient - Occident (1200-1700)」を聴いた。

これがワクワクする面白さ。カテゴリー的には古楽とワールド・ミュージックの接点に位置するのだろうが、そんな区分けは音楽そのものの魅力の前には意味がない。「キリスト教、ユダヤ教、イスラム教スペインの器楽曲と中世イタリア、モロッコ、イスラエル、ペルシャ、アフガニスタン、オスマン帝国の器楽曲の対話」というサブタイトルが示すように、かつて盛んな文化交流が繰り広げられた地中海を取り巻く西洋(スペイン、イタリア)とオリエントの世界の音楽を1枚のディスクにまとめ、その共通性を浮き彫りにしたアルバムだ。

収録曲は大半が初めて聴く作品だった。ウードやラバーブなどの中東の弦楽器や打弦楽器のサントゥールがジャラジャラ鳴り、太鼓系もドンドコやって大変に賑やかながら、底知れない哀愁をおびた曲調の作品が多い。なかには14世紀のエスタンピー(舞曲)「トリスタンの嘆き」など、耳に馴染んだ曲も出てきて、そのときは旧知の友人に出くわしたみたいな気がした。今日の我が家のおかずはたまたまクスクス(北アフリカ発祥の料理)だけど、そんなエスニック系の食事にもぴったりの音楽(結局はそこにオチるか)。

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Orient-Occident, 1200-1700

こちらで試聴が可能。

01. Makam Rast "Murass'a" Usul Düyek (MSS. De Kantemiroglu)
02. Work(s)/Ductia (Cantigas 248-353)
03. La una Yo Nací (Sarajevo)
04. Alba (Castelló de La Plana)
05. Danse de l'Âme (Maroc)
06. Istampitta: La Manfredina (14th Century)
07. Laïli Djân (Afghanistan Perse)
08. Istampitta: In Pro (14th Century)
09. Danza del Viento
10. Istampitta: Saltarello 1 (14th Century)
11. Chahamezrab (Perse)
12. Danza de Las Espadas (Galicia, 14th Century)
13. Makam Nikriz Üsul Berevsân (MSS. De Kantemiroglu) L
14. Istampitta: Saltarello 2 (14th Century)
15. Ya Nabat Elrichan - Magam Lami (Judeo-Iraq)
16. Cantiga 105/Rotundellus
17. Makam Rast Semâ'i (MSS. De Kantemiroglu)
18. Istampitta: Lamento di Tristano (14th Century)
19. Molâ Mâmad Djân (Afganistan (Perse)
20. Work(s)/Saltarello (Cantigas 77-119)
21. Makam 'Uzäl Sakil "Turna" (MSS. De Kantemiroglu)

Musicians:
Hesperion XXI
Khaled Arman
Osman Arman
Yair Dalal
Dirss El Maloumi
Pedro Estevan
Siar Hashimi
Dimitris Psonis
Jordi Savall, conductor



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by bonnjour | 2010-06-04 23:24 | 聴く&観る
相談相手は乳母
先週マドリッドで見てきたモンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」では、男性歌手が演じる二人の乳母が登場した。皇帝ネローネと浮気して最後は略奪愛の勝者となる人妻ポッペアには、相談相手である老いた乳母アルナルタ(テノール)がいる。そしてネローネの正妻オクタヴィアにも乳母(カウンターテナー)が仕えている。

昔の高貴な人々は自分で子育てなぞしないから、名門の娘にとっては幼い頃から面倒を見てくれた乳母が保護者であり相談相手となったわけだ。「ポッペア」の場合は、女主人と乳母はまさに運命共同体で、ポッペアがめでたく皇后の地位を得ることになるとアルナルタが「これで私も皇后付き女官に出世」とはしゃぐ。

「ポッペアの戴冠」で、アルナルタが「すべてをお忘れなさい」といって子守唄「Oblivion soave」を歌い、ポッペアを眠りにつかせるシーンは、しみじみと美しい。



Arnalta: Thomas Michael Allen (T)
Théâtre des Champs-Élysées - Paris
Conductor: Rene Jacobs, Director: David McVicar
バロック・オペラでは乳母役にテノール歌手をあてるのが伝統だったそうで(年老いた女は女性的特質を失ってるってこと?)、メイド服(?)にカーディガンを羽織ったテノールのトーマス・マイケル・アレンがポッペアをやさしく寝かしつける。



Ezio Pinza sings " Oblivion soave" (Claudio Monteverdi)
Fritz Kitzinger, piano
録音:1940年
イタリアの大歌手、バスのエツィオ・ピンツァ(1892-1957)が歌ったバージョンは歌曲的。オペラの筋から離れ、独立した作品として歌っている。



Philippe Jaroussky (CT)
L'arpeggiata (Christina Pluhar) "Monteverdi: Teatro d'Amore"
マドリッドでネローネを熱唱したジャルスキーもアルバム「Teatro d'Amore」でこの曲を歌っているが、乳母というよりは天からの声といった趣きが強い。これも独立作品系。

さて、芸術作品に登場する乳母の中でもっともインパクトが強く、物語を牽引する役割を担うのは、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の乳母だろう。



バズ・ラーマン監督の、舞台を現代に移し替えての「ロミオ&ジュリエット」(1996)から。06:28頃からジュリエット(クレア・デインズ)の乳母(ミリアム・マーゴリーズ)が登場する。ここでは主人であるキャピュレット家が白人であるのに対し、乳母はヒスパニック系という設定。社交に忙しい実の母にかわりジュリエットが心を打ち明ける相手は、この陽気で野卑なほど生のエネルギーにあふれる乳母だ。

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↑ 春日局。乳母といっても、徳川将軍を育てて権力をほしいままにしたこの方たちの位置付けは、西洋の乳母とはちょっと違うだろう。
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by bonnjour | 2010-06-02 18:07 | 聴く&観る