ヨーロッパの地方都市を転々とした挙げ句、ポーランドに流れ着いた管理人「B」の日常。音楽、美術、風景、食べ物など、美しいものや変わったものを追いかけて味わうのが好き。
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美しいものや変わったもの、美味しいものを追いかけるのが好きです。日々の生活で接した、そうしたものへの感想を綴っていきます。過去の記事であってもコメントは大歓迎です。メールはこちらにどうぞ。
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ロングセラーの"Wheelock's Latin"
2009年 01月 14日
新年を迎えるたびに「今年こそは」と思い、しかし挫折してしまう抱負の一つに「学生時代に使ったラテン語教本の『Wheelock's Latin』を、もう一度さらってみる」というのがある。Frederic M. Wheelock (1902-1987) というラテン語学者が執筆し1956年に初版が発行されたこの教本は、アメリカの高校や大学で定番のように使われている学習書のロングセラーだ。現在は第6版が出ており、私が学生時代に使った旧版より版形が大型化している。前に神田の洋書店で大型化後のバージョンを見つけ、再学習しようと買ったはいいけれど、それっきり「書棚の肥し」となっているのが情けない。
じっさい良くできた教本で、全くの初心者でもこれ1冊でラテン語の初級文法を体系的に学べるうえ、ローマ時代の古典から直接引用、あるいは平易に書き直したラテン文の読解や、英文ラ訳の演習ができる。後半には講読用の文章が収められたセクションがある。また、新出のラテン語単語と関連のある英単語を紹介するコーナーもあり、英語ネイティブ話者ならラテン単語を記憶する際の助けになるし、英語が母語でない者にとっては英語力アップというおまけもつく。現在では公式ウェブサイトも開設しており、音声ファイルの無料提供や関連教材の紹介を行っている。 夢多き高校生だった頃、大学に行ったらぜひともラテン語を履修したいと思った。理由は二つあり、一つは森鴎外がヨーロッパ諸語に堪能だったのは、現代語の源流かつ大きな影響を与えたラテン語をきっちり学んだから、というエピソードを聞いたため。脳味噌の差を考慮せず、文豪と同じ学習法を試みようとするところが、いかにも浅はかな子供で、今となっては赤面ものだけど。 もう一つの理由は、その頃はまっていた少女漫画に出てくるドイツの「ギムナジウム」(大学進学を前提とした中等教育機関)やフランスの「リセ」(同)ではラテン語とギリシャ語が必修だと聞いたため。要するに、乙女チックな憧れである(また赤面)。ドイツ帰りの同級生が、父上の転勤で再びドイツに転出し、現地のギムナジウムに編入したという知らせも、この憧れに火をつけた。 * ここで当時の少女漫画に詳しくない方のために解説: 当時は萩尾望都の「11月のギムナジウム」「トーマの心臓」、竹宮恵子の「風と木の詩」といった、ヨーロッパの学園を舞台に多感な年頃の美少年たちが繰り広げる愛と裏切りの人間模様、という漫画が流行っていて、なぜか日本(腐)女子の間に「ギムナジウム萌え」「リセ萌え」ともいうべき、それらの教育機関に対する異様な関心、というか憧れがあった。この「萌え」はいまだ健在のようで、東京にはファンタジー上のギムナジウムを店舗コンセプトにしたカフェ(要はメイドカフェの男子版だ)があり、女性ファンで賑わっているときく。 ともあれ大学で3年生のとき、念願のラテン語を履修したが、「Wheelock's Latin」を使って1年間で初級文法一通りと講読をやるというカリキュラムのため授業のコマ数が妙に多く、その割には登録者が少なくて授業中に「当たる」回数が多いので、なんだか一年中ラテン語の予習ばかりしていた記憶がある。 講読の最後には、「O tempora, o mores!(ああ、何たる時代、何たるモラル)」というフレーズで有名なキケロの「カティリーナ弾劾演説」をやったが、これは西洋ではラテン語学習者が必ずといってよいほど暗唱させられる文章なんだそうである。しかし、この講読が始まった3学期には出席者はごく少数となり、その反面、授業のスピードはどんどん速くなり、予習が追い付かない。和訳しなくてはいけないラテン文はテンコ盛りだ。そこで私がとった対抗策とは...。この作品の英文の注釈本を探し出し、英文和訳で急場をしのいだ。キケロさんが知ったら「ああ、何たる学生、何たるモラル」と嘆いたことだろう。そんなわけで、ちっとも身についていないラテン語を、もう一度学習するのが毎年掲げては挫折する「新年の抱負」だ。
by bonnjour
| 2009-01-14 02:48
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